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ラッセンと笹倉鉄平が好き!



 私はもともと絵を見るのが好きです。もっとも描くのは苦手で、カルテの絵や手術記録の絵は、看護婦や他のスタッフに見られないようにしていました。中学校の授業で一番最初の赤点が美術でした。でも、うまい人の絵を見るのは好きで、同級生でも素晴らしい絵を描ける奴には嫉妬のようなものを感じていました。

 自分の診療所をまだ改築する前、院内の待合室が何とも殺風景で、名の知れない絵が一枚壁に掛けてあるだけでした。だから、前から診療所をきれいにしたら待っている患者さんの心を和ませるような絵を壁に掛けたいと考えていました。当時はまだあまり絵の広い世界を知らず、よくファミレスに置いてあるトーマス・マックナイトという人の絵が好きでした。ちょっと精巧さはないけれど、見ていてホッと心が和むような、いかにも暖かい感じがする画風です。

Song of Stockbridge.JPG ある日新宿をほっつき歩いていると、手渡されたチラシに絵の展示即売会(今でもよく配っています)をやっており、入場は無料とありました。ちょっと時間があったのでフラリと入ってみました。いろいろな作家の絵があったのですが、私はふとある1枚の絵に引かれました。不思議な絵でした。笹倉鉄平さんの「ソングオブストックブリッジ」という題なのですが、雪の降る夜の街の街灯の下に禿げた牧師さんがいて、その廻りに十数人の人が牧師さんを囲むように歌(おそらく賛美歌なのでしょう)を歌っているところなのです。小さな子供も犬もいます。この絵、すごく暖かい感じがするんです。不思議な技法で、中心の牧師さんや後ろの綺麗なお店はフルカラーで表現されているのですが、中心から遠ざかるに連れて色は薄くなり、四角い絵の四隅は完全なモノクロになっているんです。だからこそ、雪の夜の場面でも絵の中心に暖かみがあり、まるで暖炉のように雪を恋い焦がれるような気持ちにさせてくれます。僕の絵に対する独断ですが、その絵の場所に行ってみたいと思わせるような絵にこそ魅力があると考えています。この絵は、まさにそこに、みんなが歌を歌っている場所に行ってみたいという衝動に駆られる絵でした。何か俗世界の中で心が洗われるような気がしたのを覚えています。それともう一つ同じ作家の絵で、「赤いパラソル」という絵。僕が初めてこの絵を見たときは「雨あがり」という題だったはずです。これはスペインのはじっこにあるカケダスという町で描かれたようですが、クリーム色の古ぼけたアパートの前で、赤い傘を差した男性が後ろ向きに立っている姿を描いています。手前にはボートと桟橋があり、港町と思わせるような雰囲気が漂っています。この男性は立ち止まっているようなので、これから外に出てくる彼女を待っている姿なのでしょうか? ちょっともの寂しげな場所ですが、やはりここへ行ってみたいという気持ちにさせてくれます。2枚とも見たことのない人のためにScanして掲載したいところなのですが、多分法律違反になると思いますので止めておきます。是非チャンスがあったら見て下さい。(後日、「ソングオブストックブリッジ」は手に入れたので壁に掛けてあるその絵の写真を載せました。部屋の照明も映り込んでおり、多分自分が買った絵を載せるのだから法律違反にはならないはず。)

 これを機に、私はたびたびこの展示会(現在でも常設でやっています)に行くようになりました。そしてもう一人の作家にも惚れ込んでしまいました。以前からこの人の存在は知っていましたが、実物の絵を見たのはこの展示会で初めてでした。そう、波を描かせたら世界一といわれるマウイ島のクリスチャン・リース・ラッセンです。この人は鯨やイルカの絵も描きますが、私はこの人の波の絵が好きです。やはりこの人の絵もそこに行ってみたいという気持ちにさせてくれます。「ホームポート」という小さな絵がありますが、月明かりの中、港に停泊して休んでいる数隻の船を描いたものです。ちょっと寂しく、感傷にひたれる絵です。この絵を私は買ってしまいました。診療所の待合室に掛けてあります。

 この二人が描いた絵の殆どを私は見ていますが、この二人に共通して云えること。それはデビュー当時から時間が経過して、段々とそれぞれの個性的な技法が完成していくことです。お二人とも現在でこそ完全に完成された技法で絵を描いていますが、それぞれの活動初期に描かれたものは今とは全く違う絵です。ラッセンさんは自転車レースの絵まで描いています。恐らく試行錯誤をしながら、悩みながら時間の経過と共に成長していったのでしょう。技法というよりは画風というべきでしょうか? 芸術という分野だからこそ、我々には想像もつかないような壁があって、それを乗り越えてきたのではないでしょうか? 正に人生そのものではありませんか?