陸上を走ることに飽き足らず、最近は海にも夢を馳せるようになりました。複数の友人が船を持ち、ときどき誘われてマリーナに、そして洋上に出ています。やはり海は良い! 実は他界した父がヨットを持っていました。遺産としてそのヨットも譲り受けましたが、そんな船舶にはマリーナでの係留費用がつきもの。30歳そこそこにして診療所を引き継ぎ、患者さんの診断、治療は出来るにしても診療所経営のノウハウは皆無、そして診療所を継いでもそれが成り立っていくのかどうかも分からない時点で毎年100万円を越えるおもちゃの管理費まではとても手に負えません。
実はその父のヨットを私自身は見たことがありません。父がそのヨットを購入したのは私の研修医時代、そう、海で遊ぶ暇など全くなく、写真で黄色い船体であったことだけしか見たことがありませんでした。やはり誰かに譲るしかないか? 考え悩んでいた頃、「じゃぁ僕にくれよ!」と手を挙げてくれた人がいました。北九州に住んでいた仲の良い従兄弟。ああ、彼なら叔父の形見分けの品を大事にしてくれるだろうし、私が彼の処に出向けばいつでも乗せてもらえる、そんな想いで私は彼の申し出に二つ返事で了承しました。しかし……、結局私が九州へ出向くことが出来ず、そして父のヨットは10数年経過して老朽化し、更にはその仲の良かった従兄弟も病に倒れました。結局父の海の夢を継ぐ事は出来ませんでした。しかしそんなことから、勿論車も好きですが船も大好き、何しろ海好きですから。
そして今年平成16年夏、あまりにもいろいろな事があり過ぎたこの1年、実は今年の夏は女房と約束していた(結婚後には3年に一度、海の外に行って真っ青な海を眺める)パラオ以来の3年目の夏でした。もちろん忠実に私は約束を守るつもりでした。しかし、長男は大学受験、次男と娘は友達との約束が忙しい、むしろ子供達は一家全員での旅行を喜ぶような歳ではない、だから恐らく一家全員で海外へ出向くのはパラオが最後だろう、そう考えていたのは確かでした。それは親から見れば子供が一人立ちしはじめた嬉しい徴候なのでしょう。「お袋に子供達を頼んで夫婦二人で何処か行こうよ。」 これは私の当然の義務です。ところが....、「子供をおいて出掛けるわけには行かない。」 それが女房からの答えでした。そうか....、だけど年に2回しか長期休暇(とは云っても1週間)が取れない私にとって、1週間家でくすぶっているわけには行かない! 女房に「約束を破ったなんて云うなよ。」 と念を押し、一人旅に出ることにしました。そう、1週間の休みがあれば広島県尾道市の海技学校で1級の小型船舶操縦免許が取れます。一緒に船に良く乗る友人からは早く船舶免許を取るように常日頃云われていました。よく行くマリーナのマリーナ・マスターからは会うたびに「先生、船舶免許、もう取った?」と必ず聞かれていました。日本でたった1週間で1級が取れるのはここだけ! じゃあ行ってくるぜ! と女房の了解を得て、私は20数年ぶりの合宿生活に入ることになりました。そして普段の日記にもこの時の模様を書いてはいますが、更に詳しく、写真もたくさん載せ、そして私が考えたこと、悩んだこと、嬉しかったこと、楽しかったことを洩らさずに書いてこのレポートを作成しました。さて、ご覧あれ! Dr.Takの新しい人生の第一歩です。
また合宿によって友人が増え、久しぶりに必死になって勉強し(もしかしたら医学部の学生時代より必死だったかも知れない…)、そして試験に挑み、ちょっと(じゃないな、かなり)苦労しながらも本当に充実した日々を過ごすことが出来ました。毎朝6時半に起床、教官達もいい人ばかり!(これは決してお世辞ではありません。私の協調性のない性格をもってしても合宿中の1週間、ぶつかった人は教官、受講生含めて一人もいません。) そして完全に体系化された教育カリキュラム。海は決して安全ではありません。洋上でエンジンを切ることも気持ちの上で難しいものです(次にエンジンがかからなきゃもうそれで大変なことになりますから)。そして陸上の交通以上に細かく、厳しく設定された法律、ルール、これをマスターするのは到底楽なことではありませんが、これからも徐々に勉強しながら収得していくつもりです。
一つの目標に向かって全力を尽くす、その目標が今までの生活と全く違うとき、そこでまた新たな発見があるはずです。そう、もちろん私にも数多くの発見がありました。そして是が非でもその目標に達しなければならないなら、人はその努力によって大きく成長するものだと思います。私も成長することが出来たのか? それが例え遊ぶためのライセンスであっても、その目標に向かう過程で努力して今までと違う何かを掴んだ実感を持っています。人は常に挑戦者であれと云われます。私もこの夏挑戦してきました。そしてライセンスを取りました。大きな思い出とともに、確実に形として残る物を得てきました。その過程で私なりに悩み、努力し、そして得たものを是非見ていただきたいと思います。(ちょっと大袈裟かな……?)