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看護婦起訴

 新生児をうつぶせに寝かせると危険であることは、以前から指摘されていました。しかし新聞報道で、ある大学病院の新生児室で、看護婦が新生児をうつぶせに寝かせたままそこを離れ、口や鼻を塞がれてしまったために低酸素状態がつづき、脳に高度の障害を残し、更に不幸なことにその後分泌物を気道につまらせ死亡した記事が出ていました。この世に生を受けて間もなくのことで、本当に不幸な事だと思います。自分の子供に例えて考えるなら、それはどうしようもなく辛いことであると考えます。このご両親には心からお悔やみ申し上げたく思います。

 ただこの事件で、私は非常に気に掛かることがあります。この事件ではその時に当直をしていた看護婦(助産婦の資格も持っているようです)が起訴されたこと。実名、年齢を挙げて報道されています。私はこの看護婦のことは全く知りませんが、恐らく女性である彼女はもう仕事を続けていくことはないのではないでしょうか? 皆さんはこの看護婦が仕事をしなければ良いと思いますか? 確かにうつぶせにさせたまま他の仕事に気を取られた彼女に過失があると判断されてもやむを得ないと思います。私自身は病院や大学が責任を問われ、その病院や大学が彼女に対して何らかの処罰をしたのであるならばやむを得ないと考えますが、彼女個人が起訴され、新聞報道にて第三者であるマスメディアから、彼女が個人的に社会的制裁を受けると云うのはどうも納得が行きません。前回の歯科医師国家試験漏洩の時と同じく、マスメディアは裁判官と刑罰執行人を兼務しているようです。決して彼女は子供を殺そうと思ったわけではありません。医療過誤が多く報道されるにつき、私自身も日頃の診療において気を引き締めなおす機会が多々あり、本当に注意をしなければならないと今更のように思っています。しかし、今の訴訟や報道を見ていると、遠慮なく云わせて貰うなら個人への報復が目的ではないかと勘ぐってしまうような事例が多く見受けられるような気がしてなりません。ついには、看護婦にも賠償責任保険が導入されると云う記事が出ていました。看護婦が個人で責任を問われたときに対応するための保険です。これってもう異常な事態であると思わざるを得ません。

 我々もそのような自分の過失を非常に恐れます。できれば危ない橋は渡らないようにとついつい考えてしまうようになるはずです。そのような圧力によってどんどん医療が萎縮して行ったとき、一番不利益を被るのは患者さんではないかと考えます。癌の手術でも、腫瘍を取れるか取れない分からないまま手術を始めることもあります。結果、何もしないで傷を閉じて帰ってくることもあります。もし、その開腹をしたことそのものを責められるようになれば、取れるかどうか分からないから手術は止めよう、癌だからしょうがないや、と云うことになってしまわないでしょうか? 僅かな危険を伴うが故に、萎縮した医療になり、あたかも現在の教育現場のようなことなかれ主義に行ってしまわないかと懸念します。

 この間織田無道さんがテレビで「最近の人間は、すぐにものごとを人のせいにするんだ。」と大きな声で云っていました。それは正解だと思いますね。皆さん、アメリカの電子レンジの説明書に何が書いてあるか知っていますか? 数年前、アメリカでシャンプーしたネコを乾かそうと、電子レンジに入れて”チン”した人がいるんですよ。当然そのネコは蒸し焼きになって死にました。なんとこの人、ネコを電子レンジに入れてはいけないことが説明書に書いてないと裁判所に訴え出たんです。ここまででもおかしな話なのに、なんと裁判で説明書に入れてはいけないと書かなかったメーカー側が負けちゃったんですよ。それ以降、説明書に「ネコを入れてはいけません。」って書くようになったんですって。日本じゃ到底考えられないことですが、陪審員制度のアメリカの裁判ならではの判決ですよねえ。

 私自身は決して萎縮医療にならないよう頑張っているつもりだし、これからもそうしていこうと思いますが、こんな世の中では5年後、10年後に自分がそうしていると言い切れる自信が薄れます。どうなることやら、これから先が思いやられますね。