僕の所属する医師会は、数十年来市民医療センターで平日の夜間と休日の昼間、夜間にそれぞれ夜間診療、休日診療があり、医師会員が輪番で当直に当たっています。今まで過去数十年、一日たりとも穴が開いたことがない、東京都からも表彰されるような鉄壁のシステムでした。僕が亡父の後を継いで開業、医師会員になったのは25年以上前、それから7年間は医師会A会員(勤務医ではなく開業している院長医師の会員)最年少でした。特にその市民医療センターでの当直についてはルールが明記されているわけではなく、2−3ヶ月前に医師会の例会で担当理事が決めた当直表が配られ、当直当日の自分の都合が悪ければ、個人的に他の会員に連絡を取ってチェンジしてもらう、そんな形になっていました。当直は5月のゴールデンウィーク、お盆休みの8月15日も、年始年末、特に大晦日12月31日も、そしてお正月1月1日も公平な順番に当たることになっていた? はずです。だから正月やゴールデンウィーク、お盆を潰されるような当直は2〜3年に1度は廻ってくる程度の頻度のはずなのです。ところが僕の最年少当時の当直表では必ず! 必ず正月やゴールデンウィーク、お盆に毎年当たり(フリーだったことは一度たりともありません!)、のんびり出来る年末、正月、ゴールデンウィーク、夏休みはありませんでした。もちろんお前は若いからたくさん当直をやれと云われた訳でもありません。特にそんなときの当直はなかなかチェンジしてもらうことが出来ず、ましてや医師会最年少の僕が年上のドクターに「代わってください。」とは言えませんでした。しかし、その当たり方があまりにも酷い!!  今度当たったら医師会に文句を言ってやろう、そんな思いを繰り返しながら10年以上が経過しました。しかし結局文句を云うことなく、やがて僕より年下の会員も増え、そんなひどい当たり方がしなくなってきました。でも......、そんなひどい当たり方がしなくなったのは理由があったのです。
 実はこんなことがありました。ある日、診療時間に同じ医師会でもかなりベテランのドクター(しかも僕の大学の先輩)から診療時間に電話がかかってきました。その先生に尋ねられました。「Tak先生の年末や年始の医療センターでの当直がやけに多くはないかい?」 って。僕は「そうですよ、明らかに不公平な当たり方をしていますよ。僕は医師会に入ってからゴールデンウィーク、夏休み、年始年末に医療センターでの当直が当たらなかったことはありませんよ。」とお答えしました。そのドクターは「そうだろ!? そうだろ!?」と云われ、そして電話を切りました。その後他の処からこんな話が聞こえてきました。そのドクターは実はもう半分引退、その医院を継いだそのドクターの息子さん(僕よりも年下)があまりにも酷い当たり方をするので、その父親たるベテランドクターは当直を決める担当理事の胸ぐらを掴んで抗議したそうです。すると胸ぐらを締めあげられた担当理事のその時に言った言葉が「若い奴にやらせるのは当たり前じゃないか?」とのことだったそうです。そしてその担当理事がその後交代して、以来当直は公平に順番に当たるようになりました。確かに医療センターでの当直はかなり当直料が高く、自ら進んでやりたいと云われる先生がいると云うことは亡き父から聞いたことがあります。でも……、医師会と云うのは開業医の集まり、それぞれが独立して地域社会の医療を担って同じ立場で仕事をしている医師達、それに個人的にお世話になったり、時には教えを乞うたりすることはあるにしても、一人前の医者として責任を持って診療に当っている医師達ですから、それを担当理事一人の判断で、クラブ活動のように下級生に雑用をやらせるような感覚で扱われるのはおかしいと僕自身も考えていましたが、結局抗議にには至りませんでした。ましてや息子の味方になってくれるはずの父親もとっくに亡くなっていましたから。今はやはりそんな当直は2〜3年に一度だけになりました。むしろ夏休みのために僕は率先して8月15日を引き受け、「その翌週は海外旅行に行くから当てないでください。」と頼むようになりました。8月15日はやりたがる人がなく、「助かるよ。」と云われています。