過誤調整と再審査請求
此処では我々医療機関が保険請求をする場合の裏事情を暴露しようと思います。(最近暴露本が流行りですが.....。)患者さんが医療機関を健康保険にて受診され、我々医療機関が健康保険の支払い基金に診療報酬を請求するのですが、ここには皆さんの目に触れない医師vs支払基金の仁義なき攻防があるんです。此処でも私得意の愚痴が満載、是非聞いてやって下さい。
毎月例のオンスの時期に重なってレセプトの返戻というのがあります。こちら医療機関のミスが元で、例えば患者さんの保険者番号を写し間違えたりすると、「これは間違えていますよ。」と云うことで、当院の請求書(レセプト)とともに郵送で戻ってきます。これは訂正してもう1回翌月に出し直します。これはこちらのミスですからしょうがありません。
返戻されるその他事由としてA.適応と認められないもの、C.重複と認められるもの、D.不適当、不必要と認められるもの 等いちゃもんの理由が列挙されています。ずっと前に遡ってこのようなあら探しをしていますが、支払い基金は営利目的の業者にこの作業を依頼して行っています。ここには医師は同席していないと云う回答が過日ありました。つまり、医師の資格を持たない者が医師のやったことに対して因縁をつけ(しかも知識不足のために間違った査定をすることもしばしば)、一方的に「金は払わね~よ!」と通告してくるわけです。皆さんどう思います? ラーメン屋でラーメンを食べて、食べ終わってから「間違ってメンマが入っていなかったから金は払わね~よ!」と云うのと全く同じです。同じく愚痴のコーナー、月に1回来るイヤなもの でお話ししましたように、病名洩れに関しては、後から入れ忘れたメンマを入れることすら我々は拒まれているのです。
また数年前、こんなことが起きました。新規に開業されるクリニックは、開業後しばらくして落ち着くと、指導という名目で厚生省の外郭団体? から呼び出しを受け、保険請求の仕方を個別に指導されます。懇切丁寧にと要項には書かれているのですが、これがとんでもない食わせ物です。北陸のある県で、30歳代半ばの新規開業の先生(無医村だったところだそうです)がいらっしゃいました。雪の中でも、夜中でも往診してくれる、素晴らしい先生だったそうです。その先生のところにも個別指導と云う形で呼び出しがありました。その先生が出向くと、指導官はなんと90歳! 威圧的な態度でこの先生はボロクソに云われたそうです。まず第一声「医者にしておくにはもったいないほどいい男だな!」に始まり、「休日の診療が多すぎる、時間外に書き直せ!」「私は厚生省の高官を連れてくることだって出来る」たまたま風邪の患者のカルテに体温の記載がないことを責め立てる等々、大声で怒鳴られ、それは酷い状態だったと詳細な記録が残っています。患者から頼まれて雪の中を休日に往診をして、なんで時間外料金にディスカウントしなければならないんでしょうか? この当時流行った我々開業医に対する仕打ちの最たるもので、自主返還という措置があります。これは説教された医師が自ら自分でカルテをひっくり返し、これだけ自分にミスがありましたと計算して申告し、その金額を保険者に返さなければならないと云うとんでもないシステムです。これは私に云わせれば、テメエが面倒な計算をしたくないための職務怠慢以外のなにものでもありません! なんとこの30代の先生、悩み抜いた挙げ句、吊り橋から身を投げ自らの命を絶ちました。全国の医師会や保険医協会でこの問題は取りざたされ、かなり騒がれました。私はこの記録を読んで涙したのを今でも覚えています。30代の若き情熱に燃える有望な先生が、90歳の老いぼれに殺されました! 遠い地の、全然知らない先生のことですが、私自身悔しくて悔しくて仕方がありません。こんな専制君主時代のような話が、現代でもまかり通っているんです。新聞や雑誌にも小さくこの事件が記事になりましたが、皆さんは殆ど記憶に残っていないでしょう。私はこの事件を絶対に風化させてはいけないと思っています。私の知っているDoctorでもこの個別指導の一番はじめに、「お前のところなんか潰そうと思えば簡単なんだぞ!」と耳打ちされた先生がいます。まるでやくざの世界です。
支払基金の横暴に対して、我々には再審査請求と云う手段があります。もう一度請求書を出し直して、「それはおかしいんじゃないの?」と文句を云います。しかしこの手続きが何とも面倒です。バックアップしてあるデータを探して再度印刷し、請求理由と云うのをズラズラ書いて書類を作成して提出しなくてはなりません。何せ9ヶ月も前の診療についてですから、その時の状況は記憶にも殆ど残っていません。例えば12年3月に通告された11年6月の診療内容では、データベースソフトがVersion Upしており、古いソフトをわざわざ使って出力しなければなりません。しかもこの回答が帰ってくるのは何時のことやら。勿論電話での抗議なんて受け付けてはくれません。私に云わせればいっそのこと、こちらから出向いて行って胸ぐらを掴みながら話が出来れば早いと思っているんですが。この手続きが非常に面倒なため、「まあ、いいっか。」で済んでしまう先生が結構多いんです。医師会からは積極的におかしいことに対してはどんどん抗議していこうとかけ声はあるのですが、私自身今まで面倒であまりしてきませんでした。しかし文句を言わないと云うことは、相手の横暴を許してしまう結果になるのです。もしDoctorの方がこのページをご覧になっていたなら、是非先生も再審査請求をして下さい。私、遅ればせながら来月以降は必ず再審査請求を出していく決意を堅く堅く、堅~くしたことを報告いたします。