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嫌われ者


 最近医療ミスがたくさん取りざたされています。おそらく表に出てくるのは氷山の一角、まだまだいろいろあるんでしょうね。確かに患者を取り違えたり、週1回しか使わないはずの薬を毎日使ったりと、その惨状は目を覆うものがあります。では他人に「お前は絶対医療ミスを犯さない自身があるか?」と聞かれれば、私の答えはNo、日々気を付けていてもいつ何時自分が間違いを起こすか不安もあります。まして多くの患者さんを相手に仕事をこなさなければならないとき。今日は午前中に患者さんがだいぶ詰まってしまい、前の患者さんのカルテを記載しながら次の患者さんを呼び入れたとき、患者さんはすぐに診察室に入ってきて椅子に座りました。まだカルテを書き終わらない私は、「お変わりありませんか?」と尋ねたところ、いろいろと訴えが出てきます。そしたらいきなり患者さんが「先生!人の顔を見て話しなさいよ!」と云って怒られてしまいました。「ちょっと待ってよ、これだけ書かせてよ。」と云うのが私の返事でしたが、確かにカルテを書きながら横目で話をするのは失礼とは思い、常日頃患者さんと目を合わせながら話をすることを主義としている私にとっては痛いところを突かれました。でも急いで患者さんを呼び入れないと混乱しそうな勢いだったのです。まあ言い訳ですが。

 疾患についての問診の取り方について、かつて見たビデオの内容です。そのビデオでは非常に丁寧な問診がされていました。一言聞いてはそれをカルテに記載し、一問一答にかなりの時間を費やしています。正直なところ、確かに問診の取り方はそれで良いと思いましたが、このやり方は実践では使えないと考えました。結局これでは一人の患者さんに15~20分かかります。全てがこんな診療だったら1時間に3~4人、当院の午前中の3時間半で10~14人、当院の診療報酬は初診料+処方箋料10~14人分で3~4万円、当院ではこの金額では受け付け事務3人、看護婦3人の人件費の時給分で吹っ飛んでしまいます。当院では午前中の3時間半で60~70人の患者さんを診ています。だから無理なんですよ!今の医療制度は!

 よく医者は新聞やテレビでバッシングされます。本当に嫌われているような気がしてなりません。支払いをする業者、マスコミ関連、税務署、支払い基金等々、本当に医者にとって敵が多いような気がしてなりません。そして更に患者さんが敵に廻った日にゃ目も当てられませんね。私の被害妄想でしょうか?

 先日、ある番組で医療ミスによる後遺症で苦しむ人がテレビの中で訴えていました。彼曰く、医療ミスを証明するには自分の味方になって証明を手伝ってくれる医者がいないと訴訟に勝てないんだと、そしてそこにいた医師達に向かって、この中で私の味方になって訴訟を手伝ってくれる人がいるのか? と声を荒げ、さらにその廻りの人間までもが声を大にして罵倒していました。医師が患者の味方に廻ってミスを証明すると云うのは、かつての山崎豊子著、”白い巨塔”の中で出てくる場面です。話の中では結局この医師は大学病院にいられなくなる結末ですが。この罵倒に対してその場に4~5人いる医師達は互いに顔を見合わせ(この中で2人は私の知る医師です)、話を切り出すことが出来ず、更にその罵倒は勢いを増しました。結局若い美人の女医さんが後で「安請け合いをしてしまった。」と云いながらも引き受けてしまったようです。これも難しい問題ですよ。確かにこの番組で最初から述べられていたように、医師の世界は狭く、そして閉鎖的であることは否めません。どこの病院で起きたミス?か分かりませんが、彼女が結局引き吊り出されてこの患者に味方することは、今後の彼女の仕事に対してかなりの不都合を引き起こすことが想像されます。確かに見ていて私も歯がゆい思いもしましたが、では、もし彼女が今後これを機会に仕事が出来なくなった場合、このとどうを組んで罵倒した人間達は彼女に対してどう責任をとるのでしょうか? 本当に悲しいことではありますが、正義感だけでは世の中生きていけないんです。そんなことを云い出したら、政治家が斡旋利得で報酬を得るのも、スピード違反が罰金を払って許されることも、お坊さんがスーパーカーに乗ることも、みんな許されないことになります。この番組を見ていて、私は本当に嫌われている医者が血祭りに上げられたような印象を持たざるを得ませんでした。そもそもこんな番組にのこのこ出ていくこと間違いだったのではないでしょうか?

 その翌週にも同じシリーズ、同じメンバーで討論がありましたが、この日のある医師の発言には私もビックリ。自分が手術を受けるなら、ミスをされないように事前に担当医にお金を渡すんだって。そうしないといけないくらい医療界は腐っているんだって。テレビであまり馬鹿なことを云うなよな! 誤解されちゃいますよね。私も勤務医時代にいわゆる寸志なるものをもらったことがあります。しかし、手術前には絶対に受け取りませんでした。私は手術前に何か渡そうとする患者さんには「お気持ちはよく分かりました。気を引き締めて全力を尽くしますからお任せ下さい。それから、これはあなたが退院なさるときに私のしてきたことにご満足いただけたなら、是非頂戴しようと思います。その時は喜んで受け取りますから。」と云ってひとまずお返ししていました。退院するときでもそのような志をいただけるなら、自分のしてきたことに患者さんが満足してくれたと云う証になると考えたからです。事前にもらうと、「これをやるからしっかりやれよ!」と云われているようで、決して気分の良いものではありませんでした。一人、病院の職員の家族が手術前日に私の自宅にまで押し掛けてきてお金を家内に渡していったので、この時は医事課に文句を云いました。現在でも病院を紹介した患者さんの家族からどれくらい主治医の先生にお礼をしたら良いかと云う質問を受けますが、「気持ちの分だけ、退院するときに渡してくださいね。」とお答えしています。もともと必要のないものですから、あくまでも気持ちがこもっていればそれで良いと思います。ちなみに私は国公立病院に勤務したことはありません。

 医療ミスが増えてきたと云われますが、増えてきたのではなく、表に出るようになってきたと云うのが本当だと私は思います。私も処方箋の記入ミスなんてよくあります。気を付けていますが、絶対になくすと云う自信はありません。ではあなたは医者を辞めろと私に云いますか? これだけ医学が進歩し、複雑になり、範囲が広く奥深くなり、専門性と云われますが、一人の医師が得意とする専門分野なんてたかが知れています。特に開業医としては、風邪や怪我から悪性腫瘍、精神疾患までカバーしなければならず専門性など発揮できる部分はごく僅かなものなんです。そんな中で、自分で対処しうるものなのか、より高次の医療機関に任せるべきなのかを、誤りなく判断することが最優先されるわけです。本当はこれぞ正義とばかりに理想論を書き並べたいところなのですが、現実はそうも行かないのがなんとも辛いところです。