官邸vs医師会

　先日、私の息子から尋ねられました。「お父さんの医師会と小泉さんて喧嘩しているの？」って。初めは息子の云う意味がよく掴みかねましたが、ようやく意味が分かりました。医療改革の問題について、首相官邸と日本医師会及び自民党を代表とする医師会族議員がいろいろ譲歩案を巡って攻防している旨のテレビニュースを息子が見たのだと分かりました。そこで私は彼の質問に対して、”その通り”であると話し、そしてこの問題が如何に複雑で難しい問題であるかを彼に分かりやすく説明しました。たかが中学生では、当家の収入がどうなるかと云うことにしか関心がないようでしたが、GDPが世界第二位の経済大国で、なおかつ世界一の長寿を誇るこの日本の医療が、いったいこれからどうなっていくのか、そして小泉さんがどうしようとしているのか、そして如何に我々日本の医師が世界に比べて安い報酬で仕事をしているかを説明しました。まあ分かりやすくと云っても息子に理解できたとは思いませんが。
　まさに息子が云う通り、首相官邸と医療の代表たる日本医師会は喧嘩をしているところなのです。医師会もだいぶ弱くなりました。折しも医師会の懇親会があり、市医師会の元会長、現在顧問を務める先生がこの懇親会の席上で挨拶をし、その中でいわゆる一般論で語られる経済理論に医療が如何に馴染まないかと云うことを力説しておりました。
　今まで私も遠慮してなかなか書けませんでしたが、ここでハッキリ云わせていただきましょう。今政府、首相官邸が目指すもの、それは受診抑制です。もっと云うなら、彼等の本音は、年老いたら死んでくれって云うことなんです。単純に考えてみれば分かります。年をとればとるほど病気が増えるのは当然です。そしてそれに対して医療を施せばお金がかかります。ある程度年老いて、病気が増える前に死んでくれればお金がかからないで済む訳です。彼等の目指すものはこれなんです。今の官邸はこのまま経済がどんどん低迷して社会不安が高まれば、政権を維持することは出来ません。彼等は政権維持のために国民の命を削ろうとしているのです。日本は世界でも屈指の医療技術を持っています。長寿国世界一であることからもこれは自明の理でしょう。日本の自然環境が世界一の長寿国になるのに適していますか？　過労死が取り沙汰され、中高年の自殺者が増え、こんな劣悪な社会環境の中で何故長寿世界一になれるんですか？　それを医療が支えていると云うことは小学生でも理解できるでしょう。今年の流行語にも選ばれた”聖域なき改革”、こんな馬鹿な話がありますか？　医療は間違いなく聖域です。高速道路よりも道路工事が欲しいハイエナのような連中と同格に並べられて頭に来ませんか？　このホームページを読んでいる皆さんの命が金儲けを目的にしている奴らの儲けと同列に並べられているんですよ。人の命よりも大事なものってあるんですか？　是非みなさん、気付いてください。この詭弁に。
　医療は何を犠牲にしても守らなければいけないものなんです。数年前、社会的入院と云う言葉が、実際に行われている事実が問題視されました、しかし、その時の総理大臣のお母さんはその社会的入院を数年に渡ってしていたんです。今、目先がちょっと変えられて特に老人の医療は介護保険にすり替えられつつあります。医療と云うよりは、身の回りの世話をする介護と云う言葉で、更に営利企業を誘い入れて、ある意味では雇用を確保する事も出来、いろいろ考えあぐねた末の一つの妙案だったかも知れません。介護保険は医者を虐めるために出来上がったものだと、ある公務員が云っていたと云う噂を聞いたことがあります。さもありなん？
　道路が出来てもその道路を通る人だけしか利益がありません。海を埋め立てて潤うのは誰ですか？　工事を請け負う業者だけでしょう？　医療を損なわれて不利益を被らない人が今の日本にいますか？　老いも若きも、稼ぐ人もあまり稼がない人も、この日本では平等に同じレベルの医療が受けられるのです。命に関わるような病気の際に、年とっているから、収入が少ないから受診できない病院がありますか？　アメリカでは収入が少ないから受けられない医療と云うものはあるんです。国民皆保険制度は世界が羨望の目で見つめる他国に類を見ない素晴らしい制度なのです。それが昭和30年代から続いてきたんです。一時の無能な政府のためにこの素晴らしい国民の財産を捨てられますか？　かつての国鉄が民営化され、道路公団がやがて民営化され、そしてこれから郵政事業が民営化されても、決して医療だけは国が絶対手放してはいけない、これぞ正に聖域なのです。国が医療を見放したとき、それで日本は滅びますよ。