ナース、ナースの卵達へ
このコラムは現在ナースの仕事をしている人達、これからナースになるナースの卵の皆さんへ送る私からのメッセージです。是非該当する人達に読んでもらい、一緒に考えていただきたいと思います。
数年前から私は看護学校の講義を持っていました。ここを読んでいる皆さんなら「ヒェーッ!」と思うであろう解剖生理学の講義です。開業して間もなく、医師会より依頼があり、教鞭を持つことになりました。確か、依頼(というより命令?)を受けたのは2月で、2ヶ月足らずの間に準備をしなければなりませんでした。最初に学校に出向いて教務主任とお話をし、教科書をいただきました。これを基本に講義を進めてほしいとのことでした。なかなか充実した内容の教科書、私の分担は、呼吸器に始まり、消化器、泌尿生殖器、内分泌、神経、感覚器まででした。これの解剖学と生理学です。盛りだくさんの内容を週1回100分の講義で前期10コマ、後期10コマ、それぞれ期末に試験を行い、成績をつけるよう求められました。教科書をもらったときに結構驚きました。私の学生時代、解剖学はlとllに別れていて、それぞれa,b,cとあり、つまり解剖学だけで90分の講義が6コマあったわけです。生理学も全く同じ6コマ。つまり、医学生が12コマ使って学習した内容を看護学生に2コマでということになります。教科書を見る限り、決して内容の浅いものではありません。講義する自分も大変だと思いましたが、何より、これを勉強して試験を受ける学生たちに大変だろうなと思ったことを覚えています。
たまたま私が配属された看護学校は、病院に勤務しながら午後から講義を受ける人が殆どでした。皆さんだいぶお疲れの様子で、講義中の居眠りも多々ありました。しかし、私は彼らのような苦学の経験がなかったので、敬意を表して寝ている人は無理に起こしませんでした。そのかわり、聞き逃した内容は必ず人のノートで補うようお願いしました。私自身も楽しく講義をさせていただき、このような話好きですから、脱線して自分の経験談なども織りまぜて話を進めました。
つくづく思ったのは、人に教えると云うことは、自分の勉強にもなります。私の学生時代の教科書を数年ぶりに開き、新たに仕入れた知識もかなりありました。私も学生時代は麻雀ばかりで、あまり勉強しなかったんですよ。私よりすぐ下の人達が留年していきました。結構辛かったです。今や、私の教え子達も1人前になり、それぞれ立派に仕事をしてくれていると信じています。たまたま私の教え子の1人が縁あって私のクリニックで仕事をしましたが、それはそれはよく働いてくれました。彼女と巡り会えたことも、教鞭をもってよかったと思う理由のひとつになりました。
看護学生の勉強を見ていると、それは大変なことだとつくづく思います。2025年には世の女性の4人に1人が看護師さんでないと、超高齢化した日本は支えられないとも云われています。ただ看護師という仕事は、この仕事が好きでないと辛いものです。よく3K(きつい、汚い、危険)どころか5K以上(帰れない、結婚できない、その他いろいろ.......)と云われますが、まさにその通りです。当院に勤務して辞めていった人を見ていると、中には看護師という仕事があまり好きではないのにもかかわらず、この仕事をやらざるを得ないとおぼしき人がありました。これは地獄でしょうね。実際賃金面等、決して割に合う仕事ではないと思います。しかし、本当にこの仕事を好きでやっている人達は輝いて見えます。私が耳の手術で入院した某大学病院での話、看護師さんのローテーションを見ているとどうもおかしいんです。「あれ? またあなたなの? 確か昨日は準夜だったよねえ。」と聞くと、今欠員が出てそのしわ寄せが来ているとのこと。でもそのてきぱきとした仕事ぶりに、後光が射しているように見えました。いいえ、お世辞ではありません。
今看護学生の人達も、もう免許をとって仕事をしている人達も、看護に携わる以上はずっと勉強しなければなりません。医学は日進月歩です。もちろん、我々医師も勉強しなければなりませんが、医師の場合は、新しい知識や技術が出てきても、それが広く医療界に浸透するまである程度のタイムラグがあります。つまりゆっくり勉強する暇があります。しかし看護師さんの場合は、新しいMethodというのはある日突然必要になるでしょう。今日からこの器械を使うことになりました、というシチュエーションは往々にしてあると思います。頑張って下さい。ちょっと寂しいのは、結構drop outしちゃう人がいるんですよ。私の教えていた学校でも1年で6人が辞めていってしまった年がありました。やはり辛いんでしょうか? もともと辞めてしまう人が来ていたのでしょうか? 看護師の免許を持っていれば、一生食いっぱぐれはありません。医者はこれからは質を問われるようになりますのでのんびりはしていられません。医師のポストがだいぶ飽和状態になってきているのです。社会主義国では、医師免許を持っていながら仕事がないためにタクシーの運転手をやっている人もいるのです。超高齢化時代を迎える日本では、これからあなた方の肩に重~い荷物を載せなければならないんです。
それから准看護師という資格、これはかつての古い日本で、安い賃金で仕事をさせるために出来たものです。今や社会が成熟し、このような考え方は成り立たなくなってきています。准看護師という資格をなくし、経験何年以上の人達に対し通信教育によって勉強をしてもらい、資格試験にパスすれば正看護師の資格に格上げするという計画が進んでいます。数年後には実現するでしょう。これからの日本、介護保険も今年4月より本格的に動き出し、介護、看護を必要とする患者さんがどんどん増えていきます。20~30年以上前だったら死んでしまったような患者さんも、これからは助けられるようになっていきます。前述した2025年に医学がどうなっているのか、私には見当もつきませんが、我々医療に携わる人間の仕事は増えることはあっても、減ることは絶対ないでしょう。一緒に頑張っていきましょう!