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学会活動

 ちょっと医学界の裏話をご披露します。勤務医時代は私もよく学会での発表をしました。これも経験で、例えば日本外科学会認定医を取得するときも、どれだけの学会発表、共同演者をしたかと云う報告をしなければなりませんでした。つまり胃ガンや乳ガンの手術を何例やったとか、何例にどんな麻酔をかけたかとか、論文をいくつ書いたと云うような経験と同様、学会においてどんな経験をしたかと云うことが重要視されるわけです。だいたい2~3ヶ月前から教授や上司から今度の○○学会でなになにをやれと辞令が下るわけです。まあ半分嬉しいやら、あとあとが怖いやらで複雑な気持ちです。病棟での仕事やアルバイトをこなしながらの準備ですから結構大変なんです。直前になるとノイローゼ気味になる人もいます。スライドを作って、原稿を上司に何回も添削されて、たかだか5~10分間しゃべるだけなのに、その準備に何ヶ月もかかるんですよ。

 私のデビューは外科集談会と云って、1年生がデビューするにはちょっと華々しすぎる大舞台だったんです。自分の受け持った早期食道ガンの報告をしました。震える手で原稿を持ちながら読んだ記憶があります。でもデビュー戦は特にトラブルなく上手く行ったんですよ。まあ怖いながらも華々しいデビュー後は、精一杯やったと云う充実感がありました。二度目は胃の粘膜下腫瘍の症例を10数例集めて発表しました。その時の結論が、「腫瘍が胃の上方にあれば上部胃切除を、下方にあれば下部胃切除をする。」と云うものでした。自分でおかしいと思っていたのですが、当たり前のことですよね。腫瘍が胃の上にあるのに胃の下部を切除するはずないじゃん........。まあこれも特に批判されることなく済んじゃいましたけれど。しかし良いときばかりではありません。

 ある地方の外科学会で私はちょっと珍しい症例の報告をしました。自分が受け持ち、なおかつ残念ながら亡くなってしまった患者さんなのですが、直腸の悪性リンパ腫(当時私の報告例で本邦70数例目)の方で、術前に確定診断が得られず、亡くなった後の病理解剖で初めて診断がついたと云う、あまり胸を張れない報告でした。発表の後に会場からの質疑応答に答えなければならないのですが、会場の見ず知らずの先生から「しかじかかくかくのデータがあれば、当然術前に悪性リンパ腫を疑うべきではないか?」と云われました。それは私の知らない内容でしたので「それはごもっともですねえ。」なんてお茶を濁して逃げてきました。そんなことを云われるとは思ってもみなかったので、イヤ~な気分になりました。発表後も少し落ち込んでいました。実はその2週間ほど前、私の当直時に緊急で消化管穿孔疑いの患者さんが他の病院から転送され、直ちに開腹したのですが、結局消化管穿孔はなく、とどのつまりおなかを開ける必要はなかったと云う痛い経験をしていたのですが、発表直後の落ち込んでいるところに私の上司である外科部長が来て、「Tak君、この次の学会はこの間の反省の意味も込めてNegative Lapalotomyの症例を集めて(つまり開けないで良い腹を開けてしまった症例をかき集めて---それも自分が関与していない症例も含めて)発表してみないか?」と云われました。「じょ、冗談じゃありませんよ!」目をひん剥いて私は部長を睨みつけちゃいました。その迫力があったのか、外科部長は「そうか.....。」と云ったままその後は黙り込んでしまいました。

 結構このように若手が他の大学のベテランに虐められると云うのは良くあることなんです。その学会によって会場の雰囲気はずいぶん違ってくるのですが、日本○○治療学会などは誰もが震え上がるような修羅場なんです。幸い私はここでの発表の命を受けたことはありませんでしたが、わたしよりだいぶ上の先生が助教授から今度どうだ? と聞かれたとき、「日本○○治療学会だけは勘弁してください。」と懇願している場面を私は目撃しています。その学会では虐めの質問に対し発表者が「その件につきましては当教室の主任教授である××がお答えいたします。」と云って逃げたとか、「本当はこの症例に僕は全然タッチしていないんだ!」と泣きながら叫んだと云う恐ろしい噂も聞いています。意地悪な質問をする人って、他の発表者にも繰り返し質問を浴びせかけるものなんです。またそんな奴に限ってマイクの前に立つと「△△大学外科の□□と申します。」と繰り返し云うんですよ。「もうさっき聞いたっちゅ~に!」こうやって自分の名前を学会に売り込んでいくんだと云う話を聞いたことがあります。ねえ?イヤな世界でしょう?
# 私はもう開業してしまったので必要なくなりましたが、大学病院や国公立の病院など、病院に勤務しながら学問を究めて行くには、論文発表や学会発表と云うものは避けて通れないんです。教授選挙や講師、助教授に昇格するときなどでは、如何に学会で活躍してきたかと云うのも評価を受ける重要な材料になるんです。私の好きだった上司も教授から「麻雀ばっかりやってないで、少しは論文を書いたらどうだ!?」なんて怒られていました。私としてはむしろ臨床の場で患者さんに接する方が、犬やネズミを相手に実験をしているより遙かに楽しかったのですが。それでも懲りずに開業してからも、学会ほど大きな舞台には出ていませんが、研究会や座談会の発表はそこそこしているんですよ。

 かつては製薬メーカーに依頼してスライドを作成していたのですが、もちろん今はMacを使って自分でスライドを作っています。まだMacが出始めの頃は、質疑応答の時に、その素晴らしいスライドはどうやって作ったのか? なんて質問になり、座長がそんなことは会が終わってから個人的に聞きなさいと窘めたなんて話もありました。またその頃は学会会場の出入り口にによくApple社のブースがあり、そこに人だかりなんてことがよくありました。医師の間にMacがこれだけ浸透したのは、スライド作成に威力を発揮していたからなんです。

まあ、あまりこんな発表から永い期間遠ざかってしまうと、たまにはやりたいなあなんて色気が出てくることがあるんですけれど、引き受けたら引き受けたで後に苦労することになり、結局いつも後悔することになってしまうんです。直前になってどうしようか? なんて途方に暮れることもしばしば。突然熱が出たことにしようか? なんてね。とりあえず、最近私が出るような研究発表会では”虐め”はないようですが……….。