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苦しくない胃カメラ

 今日、患者さんからちょっと嬉しいことを云われました。今年始めに胃カメラを当院で行い、1年後である来年早々にまた胃カメラを予約している患者さんからチラッと一言。私のところが今までで一番胃カメラが楽だったと云っていただきました。その患者さんとしばらく外来で話をしましたが、そう云われるのは医者冥利に尽きると云うものです。ちょっと自慢話し風になってしまいますが、是非お付き合い下さい。
 皆さんの中に胃カメラの検査を受けて本当に苦しかった経験をしたことがある方はいらっしゃいませんか? 他の人から胃カメラは苦しいと吹聴されて恐々としている方はいらっしゃいませんか? 決して胃カメラは苦しい検査ではないのです。私に云わせれば、げっぷを一生懸命我慢しなければならないバリウムの検査の方がよっぽど苦しいと思います。では上手い先生のやる検査が楽? いいえ、それは違います。患者さんに愛情を持って優しくやってくれる先生の検査が一番楽なんです。もうあまりお付き合いが無いのではっきり云ってしまいましょう。私自身が今までに6回胃カメラを飲んでいます。大学病院の研修医1年生の時で、ストレスで十二指腸潰瘍が出来たときに上司に、覚えたての頃同級生とやり合ったとき、大学で内視鏡室のチーフにやって貰ったとき、やはり大学で未だ未熟な下級生がやってくれたとき、またまた別の上司がやってくれた時、そして他の病院でやはり内視鏡室のチーフにやって貰ったときの合計6回です。そして結局一番楽だったのは一所懸命気を遣いながら丁寧にやってくれた下級生のときでした。そう、気を遣いながら優しくやる胃カメラが一番楽なんです。彼には「いや~○○先生や△△先生の時よりも君がやってくれたのが一番楽だったよ。」と云いましたが、彼は非常に喜んでくれました。内視鏡医にとって患者さんから「苦しかった。」と云われるのがものすごくショックなんです。まして現在の私のところは一開業医、「あの先生は下手で苦しいよ。」なんて評判が立ってしまったら、当然私の死活問題になってきます。だからこそ、私はまず「苦しくない内視鏡検査」を心がけています。正直なところ、細かい病変の観察や、癌の深達度を診断するなら、大学病院や大病院で毎日内視鏡検査をやっている先生の方が診断能力として遙かに私より上でしょう。時々内視鏡の勉強会に参加しますが、私が10数年前に内視鏡を始めた頃に比べて、その診断能力については正に隔世の感があります。もちろん、重大な病変の見逃しは決して許されませんが、私の仕事は白か黒かをはっきりさせること、そして黒と出ればその治療を出来る施設に患者さんを紹介すればいいのです。しかも内視鏡検査の際、怪しい病変があればやみくもに観察に長い時間をかけることなく(検査時間が長くなればやはり患者さんは苦しいと感じます)、生検と云って、鉗子で組織の一部をかじり取り、病理検査に出せばはっきりします。教育病院では観察によって、つまり病変部の詳しい肉眼的所見によって診断を下し、生検は補助検査として付随して考えています。肉眼的診断と病理検査による確定診断が異なれば、間違った肉眼的診断をした医師は上司から怒られます。大学時代の内視鏡のカンファレンスでは、スライドにて病変部を大写しにし、こういう所見があったから自分がこのような診断をしたんだと説明を求められます。それについて上司が「バッキャロー! 何を云ってやがるんだ!」と怒鳴り飛ばす訳です。まあ実際に患者さんに気を遣いながら動く画面(ましてや私が始めた頃は今のような電子スコープではなく、ファイバースコープで、決して肉眼で検査中に見る画像は鮮明なものではありません)を見る場合と、大写しで静止している画像を患者さんを気にすることなくゆっくりジッと眺められる場合とは当然診断をするための条件は異なってきます。特に胃潰瘍と胃癌の区別については厳しく教育を受けました。でも私のだいぶ上の上司も吐血の患者さんに緊急胃カメラをして「これはKrebsですね。」と診断したのに、結局胃潰瘍だったと云うエピソードもあります。
 さて、苦しくない胃カメラの方法、当院では咽頭麻酔に他医より時間をかけ(約15分以上)、原則70歳以下の人には鎮静剤の静脈注射を行います。この薬には抗不安作用もあり、直前に恐怖心が薄れることでも有用と考えています。介助する当院のナース達も非常によく患者さんに気を遣ってくれます。かつて他の先生のやる検査を後ろで見ていたことがありましたが、「ハイ、管を飲んでください。」と云われている先生がいらっしゃいました。「飲んで!」と云われて飲めるものではないですよ、あの管は。あれは患者さんが飲むのではなく、我々医師が押し込むものなんです。食道の入口部を直視しながらゆっくり軽く押し込むとスーっと入っていくものなんです。この瞬間が唯一患者さんにとって不快と感じる一瞬なのですが、あとは全身の力を抜いて胃カメラを受け入れる気持ちになっていただければ、検査は楽に通常5分くらいで終わってしまいます。また気を紛らわす意味でも、私は内視鏡の画面を患者さんにリアルタイムで見せながら説明しています。目を閉じてジッと我慢するよりは絶対楽なはずです。中には自分の胃の中なんて見たくないと云われる患者さんもいらっしゃるので、その様なときには視線だけそらせてもらい、耳からの実況中継だけは続けて行きます。私自身が飲んだ経験からですが、患者サイドに立ったときに、検査中に医師とのコミュニケーションが途切れるのは非常に不安な思いになります。ましてや看護婦に他の患者さんの指示をするなんて言語道断。検査を受けている人に対して、例えオーバーアクションであっても今はあなたに付きっきりなんですよとアピールすることが、検査に対する不安解消に一番だと私は考えています。私自身が既に何回も胃カメラの検査を受けているので、どうすれば患者さんが楽か、或いは苦しいかを把握しているつもりです。自分がやられて苦しかったことは、患者さんには絶対するまいと云う気持ちでやっています。そう考えると、一度私自身がおなかを開いてもらうのも良いのかも知れませんね。