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厳しい世間の目

 今我々医療界を見る世間の目はかなり厳しくなってきています。不正、過誤、はたまた見落としなどには厳しい制裁が待っているといわざるを得ません。その一方で患者さんサイドからは、そんなことくらいはちょっとズルしてくれても良いんじゃないのと云う無言の圧力がかかることもない訳ではないですね。

 昔は社会保険の本人は本人負担がなし、社会保険の家族は今と同じ3割でした。だから家族の人が風邪をひいて来ると、「じゃあお父さんが風邪ひいたことにして、こっちにつけとくからお金は良いよ。」なんてことをしていた時代があったようです。今我々がこんなことしたら、場合によっては保険医取り消しでしょうね。まさに医療機関にとって保険医取り消しと云うのは廃業を意味しますから。
 数年前こんなことがありました。娘がアメリカに留学する予定なので、今までの伝染病の既往について英語のCertificate(診断書)を書いて欲しいとのこと、そのお母さんが書類を持って来院されました。当院で風邪やその他の指定伝染病にかかっては私のところに来ていたので、カルテに記載のあるもの、実際に何歳の時に何に罹患したと云う申告があればそのまま書き込むことができます。しかしその子は麻疹だけは既往がなく、お母さんの記憶も定かではありませんでした。でも空欄のままにしておいたり、Unidentfied(不明)と書くと、留学できなくなってしまう可能性があるとのことでした。ちょっと困って、本人に来てもらい採血をして抗体価を調べればそれが判断できる旨話したところ、もう出発間近で結果が出るまでは待てないとのこと、「もっと早く来てくれないとねえ、困ったなあ。」と悩んでいたところお母さんは「麻疹にかかったことにしてそう書いてくださいよ!」と云います。こちらの本音としてはお母さんが私にウソの申告をして、それを私が騙されて書く分には私には罪はないはずなんですが、罹患していないことを聞いた以上はそうは書けません。私は診断書に対する不実記載と云う重い罪を犯すことになります。「イヤ! お母さん、それは出来ませんよ!」ましてやアメリカなんてのはそんなことに対しては日本以上に厳しいでしょうね。自分がそんなタイムリミットギリギリに来て、そんなことを私に強要することに対して私はムッと来たので、私の顔色が変わったのでしょうか? お母さんは「しまった!」と云うような顔をして逃げるように診察室を出ていきました。まあそれ以前にこの家族とはいろいろとトラブルがあったので、むしろ私は良かったと思っています。

 今から十数年前の勤務医時代のことになりますが、私が手術をしてそろそろ退院にさしかかってきたときの患者さんの話。いついつ退院と云うことにしましょうと患者さんに話したところ、もう何日入院させておいてくれないか? そうすれば入院保険が降りるからと懇願されたことが複数回ありました。私の心情としてはやはり1日2日が限度、やはり3日も5日もと云われこちらもそれは無理だと話したこともありますし、まあ良いでしょうと1日くらい延ばしたことも記憶しています。患者さんの立場に立つ身としてはなるべくご要望にお応えしたいとは思いますが、やはりいけないこと? またその人が退院すれば新たに患者さんが入ってくる、中には癌の手術のためにベッドが空くのを待っている人もいる訳ですからね。むしろ今現在の方がそう云う点では難しいのではないでしょうか? 世間の目が厳しくなってきたと云わざるを得ません。よく政治家や企業の重役が逮捕される直前に緊急入院となることがあります。「あれってホント?」って私が聞かれることもよくありますが、それは主治医でなければ分からないこと、外野の私がとやかく云う問題ではありません。

 良く医者が接待を受けることに批判が集中します。製薬メーカーから個人的に接待を受けること、私自身もままあります。では接待を受けたメーカーの薬ばかり使う? いえいえ、そうではありませんよ。でも良く当院へ来ていろいろ話をしたり、資料をくれたりするMRの紹介する薬は使います。薬は日進月歩、ここ3~4年でもバイアグラに始まり、アンギオテンシンll阻害剤と云われる全く新しい作用機序による降圧剤、抗生剤や抗ウィルス剤等も新しいものが出てきています。だから我々も勉強していかなければなりません。その勉強をするための手伝いをしてくれるメーカーの薬はついうい使うようになります。もちろん、確実な効果と安全性を持ち合わせた薬であることが第一条件ですけれどね。アメリカでは製薬メーカーが医学生を接待して、医師のライセンスを取る前から売り込み攻勢をかけるんだそうです。そしてそれは医学界を初め、世間の認知を得ているんだそうです。世間の目が厳しい日本でそんなことをしたら、もう早速マスコミが騒ぎ始めるでしょうね、とんでもないことだと。

 今日本では他人がお互いに不正をしないか牽制しあっているような気がしています。まあ、倫理観のない日本人には、或いはそれで良いのかも知れません。かつて保険診療とは曖昧なもの、ファジーなものと、つい5-6年前まで云われていました。しかし今は厳しいですよ。査定でバンバン診療報酬を引かれますし、時に不正請求をして保険指定を取り消されるなんて医療機関も結構出ています。Grumbleにも書きましたが、明細を記載した医療機関の領収書を受け取ることは、不正請求の発見に繋がるからなどと、堂々と新聞が云ってのけるご時世です。そんなことやっちゃいねぇよ! ってのが私の弁ですが、まあ信じては貰えないでしょう。医師に限らず、大学の入学試験や裁判官までもがマスコミに散々責め立てられている時代です。かつて、今はもう亡き有名俳優が麻薬の不法所持で捕まったとき、「演技をするのに必要なものなんだ。」と宣いましたが、そんな言い訳は通る訳がありませんね。かつてのソビエト連邦では密告が国の治安に大きな役割を果たしていたとか? 日本もそうなってきているような気がしますが、そうしないと安全や公正を維持できなくなってきたのも寂しい限りです。