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もし自分の家族なら?

 私が医師として自分の患者さんに対してどのような選択をするか? 幾つかの選択肢があり、時に悩むこともあります。私の勤務医時代、家でくつろいでいた夜中に当日の当直の先生から私に電話があり、「先生の患者が暴れているから来てくれ。」と云われ、車を飛ばして病院へ行ったことがあります。ナースにどうしたのかも尋ねないまま大部屋である病室に飛んでいきました。それほど大きくはない手術を当日にした術後の患者さん、私に問いかけます。「Tak先生はもし先生の奥さんが病気になったらこんな病院に入院をさせますか?」 何を怒っているのか分からないまま、「自分の女房だってこの病院に入院させますよ。何がお気に召さないのですか?」 すると患者さん、「この病院では手術をした患者をこんな屋根もないところに置いておくんですか?!」  「????」 ああ、ICU症候群か........? そう、重症の患者さんや術後の患者さんが駆け回る看護婦や心電計の音などに惑わされ、一過性に正常な思考ができなくなる状態です。まあその日は患者さんに鎮静剤を打ってしばらく様子を見て、落ち着いたところで私は家に帰りました。その時にふと思ったのですが、時に他の人から「先生がもし自分の家族だったらどのようにするのか?」と尋ねられたことが何回かあったのです。もちろん他人である患者と、自分の身内である患者との間にそれだけの理由で治療方針に差が出るはずはありません。しかし患者さんは家族並の待遇を希望しているのだと考え込んだことがあります。しかし、ケースによっては手術をするか、或いは待機的にもう少し様子を見るかで迷うことも時にはあるものです。
 そんな過程で、患者さんからズバリと「先生の身内だったらどうしますか?」と尋ねられたこともあります。まあ確かに良い考え方かも知れませんが、正直なところ、そのようにあからさまに聞かれるのはあまり気分の良いものではありません。自分の身内だろうがあかの他人だろうが、精一杯私なりのことをやってきたつもりですから。自分の身内と通常の患者さんに行う方針が違っていると思ったことはないと確信しています。今や我々医師は様々な選択肢を患者さんやその家族に呈示し、どの選択肢を選ぶかは医療を受ける側、つまり患者さんの側が選ぶような時代になってきました。患者さんの権利意識が高まった? 果たしてそうでしょうか? 悪く云えば医師側の責任転嫁とも私には取れなくもないのですが。形式的に手術をすれば治る患者さんに対して手術をしないで経過を見る選択肢もある旨説明することもあるようです。確実に命を落とすことが分かっていながら。これはあくまでも患者さんが手術を選択したと云う事実を明瞭にするため、またそれを記録に残すため。生きるか死ぬかも患者さんに選択させると云うことなんでしょうか? 非常に矛盾を感じます。特に外科医としては。
 ”先生の家族だったら? 身内だったら?”と聞かれたら今では”私はそんな区別をしているつもりはありません。そんな聞き方は辞めましょうよ”と話すことにしています。自分のところに来てくれる患者さん、可愛くないはずがないではないですか、身内と区別することなく全力でその人の診療に当たりますよ。よく説明が不足で、思わぬアクシデントが起きたときに”そんな話は聞いていなかった。”と医師が責められることもあるようです。私自身は外科手術を受ける自分の患者さんに全身麻酔が100%安全ではない、時に麻酔によるアクシデントがあることまで話してはいました。しかし、そんな話は患者さんも聞きたくはないはず。もし術後の呼吸不全、腎不全、或いは縫合不全、麻酔のトラブル、そんな最悪のことまで徹底的に話し、それでも手術を受けなければ確実に命を落とすような疾患の患者さんは却って不安を煽られるのではないでしょうか? 私自身も約10年前に全身麻酔下に手術を受けたことがありますが、やはり麻酔に関しては不安があり、”もし自分が麻酔から醒めないようなことがあったら”と云うことで女房にMOディスクに書き込んだ遺書めいたものを準備したことがあります。私は危険性も充分に認識していると云うことで様々なトラブルについての詳しい説明は受けませんでしたが、自分自身そんなことを主治医から聞きたくもありませんでした。
 我々の仕事も本当に難しくなりました。やはりかかりつけ医をもって普段からコミュニケーションを充分にとること、上手く行って当たり前のことなのですが、それが時にトラブルになることがある以上は説明しなければならないのでしょう。もし自分の家族だったら、最悪の事態の説明はあまり聞きたくないと云うのが私の個人的な本音ですが、皆さんはどうお考えでしょうか?