Dr.Takの船舶免許取得日記第7日目
1級小型船舶操縦免許取得のための講習最終日です。午前中に2時間補講を受けて、最終の学科試験に突入です。昨夜もずいぶん勉強しましたよ。断言できます! 1週間だけだけど、間違いなく医学部の勉強より厳しいって。そしていよいよ学科試験が始まります。問題は合計で64問、各項目の5割以上、なおかつ総点の6割以上取れば合格。。問題形式は4者択一、ボールペンで番号の○を黒く塗りつぶします。医師国家試験だって5者択一だからあまり変わりませんよ。例の海図、三角定規、コンパスを使う問題は合計3問、だいたい1問5分くらいかかりそうですから当然その問題は後回し。誤っているものはどれか? と云う問題に「停泊船の付近は安全のために高速で航行する。」とか「定員を超えて乗船させる場合には、人数分のライフジャケットを用意する。」とか常識でも判断できるような問題が多々あるので、そちらを先にやり、実測、計算をして回答を出すものは後でゆっくり時間をかけて正確にやるのが常套です。試験時間は140分、医師国家試験並の長丁場です。
さて試験も順調に進行、例の問題3問を残したところで残り試験時間はジャスト1時間、楽勝と思っていました。1問目、これも実測であるから多少の数値のずれはあるものの、4者択一の選択肢から一番近いものを選べば良い訳です。私は慎重を期して、例え明らかに選択する答えがすぐに分かっても、他の文章を確認する意味でしっかり読んでいきました。誤っているものを選べでは正しい3つの文章をしっかり、正しいものを選べでは誤っている3つの文章をしっかり読んできました。それでも時間は充分に残っていました。ところが! 長い時間字を読み続けてだいぶ目が疲れていました。老眼鏡をかけたり外したり。少なくも今回の受講生の中で試験中に老眼鏡を使わなければならないのは私だけのようでした。その海図の問題の答えを自分の計算で出し、選択肢を見てみると、どっちつかずの二つの選択肢の間の数値が出てきてしまいました。明らかに選択肢と違う数値なら何処かで勘違いと云うことなのでしょう。だけど私の出した答えは定規のズレによる数値のズレになるわけです。もう一度やり直し、またダメ、3回目、ついに船の到着点が横一列に3つ並んでしまいました。何で毎回ずれるんだよ? その時、未だ試験時間が40分以上あるのに、私の後方の席でガタガタと騒々しくなりました。もう出来上がった人が退室し始めたのです。それからしばらく、私の席は前の方なのですが、ふと後ろを振り返って廻りを見回してみると.....、ゲゲゲゲ!!! 20人いる受講生のうち、未だ試験室に残っているのは3人しかいないではないですか!? 未だ私は2問残っているんですよ。時間も未だたっぷりあるんですよ。焦りまくりです。正確を期するこんな問題に焦りは禁物。その態度を察してか、試験官が私に近寄りアドバイスをくれました。アドバイスはありがたいのですが、何とも情けない! そして.......、そしてついに試験室に残っているのは私一人だけになってしまいました。ギェーッ! ま、まずい!! 慌てて3問目を解き、検算することなく席を立ちました。私は昔から試験時間内に退室する癖はないのです。例え時間が余っても最後まで何回でも見直しをしなさい、そう云われて育ちましたから。汗びっしょりで荷物をまとめて出ていこうとした時に試験官が私に云いました。「Takさん、さすがに時間をかけただけあって、海図の問題は3問とも正解だよ。」って。そんなこと云われても嬉しくも何ともありませんよ! 逃げるように教室を飛び出しました。
上の食堂にお弁当が用意されています。これをかき込んで下に降りなくてはなりません。みなさんもう食べ終わっています。私は全部食べている暇はなく、2/3くらい食べて階段を駆け降りていきました。そして1階のロビーに試験結果が張り出されていました。不合格者なし! つまり私も1級小型船舶操縦士免許を取得できた瞬間でした。ようやく私の焦りも鎮静化。
実はこれでもう帰る人は尾道を離れます。そして私を含めて6人が小型特殊船舶操縦士免許、つまりマリンジェットの免許の講習をもう一日受けます。そして、台風が近づいており、明日はマリンジェットの実技講習が出来るかどうか分からない、だから今日のうちに実技をやってしまう! と云うことになりました。私にとっては早く済むことはありがたいことです。そしてこの講習を受けない人とはこのロビーで別れることになります。だいぶ名刺交換もしました。またお会い出来るでしょう。車を買うときには是非連絡下さい。タイに来たら是非連絡して。東京で飲みに行きましょう。それぞれの人といろいろな約束をしています。そして6人の受講生は実技会場へ向かう車に乗り込みました。
試験会場から車で約40分、あこがれのヨットやクルーザーが羽を休める綺麗なマリーナに来ました。ここが小型特殊船舶免許実技講習の会場です。オオッ! バートラムがいる、シーレイがいる! 木造のヨットも良い雰囲気、マリーナの雰囲気って好きです。
関東でもいくつかのマリーナに行きました。マリーナには必ず美味しいレストランがあるのが決まり、そして洒落たブティックがあります。そんな中で講習を受けられるのは幸せなことです。デッキの上でマリンジェットの船体や機関についての説明がありました。
さて実技訓練の開始です。受講生3人に1人のインストラクターがつきます。一人は女性、もう一人は男性。残念ながら私には男性インストラクターでした。こちらでもエンジンをかける際、そして発進する際には前後左右の確認をします。そしてエンジンをかけたら必ず冷却水がちゃんと出ているかどうかを確認しなければなりません。
私も初めてマリンジェットを操縦しました。後ろに乗せてもらったことはあるのですが、オートバイとは違った特性があります。カーブではスロットルを開けるほどお尻を滑らせて小さく回れる。これが明らかにオートバイと違うところです。陸上でこれをやったら間違いなく転倒です。ブイの間を通過するのにもちょっとコツが要ります。
そしてアッと云う間に実技試験。試験官が繰り返し我々に云います。「技術を見る試験ではありませんよ。安全確認とマナーを見る試験ですから。」 時速50キロ以上出たら即刻失格だそうです。でもマリンジェットがこんなに楽しい乗り物だとは思いませんでした。これは買わなきゃ。そう、女房の車にトレーラーを引っ張らせて海に持っていこう!!
こうして小型特殊船舶免許の実技講習、並びに実技試験が終わりました。私が他の若い人達に提案しました。「こうして同じ講習を受けたのも何かの縁、今夜は予習することもないし、みんなでどこかに飲みに行きましょうよ。」って。そして夜8時から焼き鳥屋さんの2階の座敷を貸し切りにして大いに盛り上がり、語り合いました。
忙しない一日でした。しかし目の衰え、頭の衰えを思い知った一日でもありました。まさか試験であんなに焦る羽目になるとは.......。私は30歳で日本外科学会認定医の試験(口頭試問)を受けて、人生の中で試験はこれで全て終わりだと確信してきました。試験.....、今でこそ看護学生に試験問題を出していますが、やはり自分が受ける試験とは辛いもの、そうですよ、自分が試されるわけですから。この海技学校のホームページでも私よりはるかに年輩の方が笑顔で写ってしました。そんな人達も私のように自分の限界を思い知らされているのでしょうか? まさか.....、楽勝で全ての講義、試験を終えて行ったとは到底思えません。実は私はこの日の実技試験でウソをつきました。この小型特殊船舶操縦士免許でも係留、つまりマリンジェットをロープで結ばなければならないのです。しかし教官が「もう皆さんは1級の免許を取ったんだから当然出来ますよね?」 直接私の目を見ながら教官は「出来ますよね?」と尋ねられ、私は「もちろん出来ます。」と答えました。試験は省略になりましたが「ではやってみて下さい。」って云われたら? 本当に出来たかどうか? 1日経ったら出来たのかどうか、自分でも分かりません........。すみません! マリーナに行ってまた練習します。
そしてみんなで行った飲み会、それこそ未だ顔と名前が一致していなかった仲間が打ち解け合う会になったと思います。フリーターの○○さん、頑張って仕事を見つけて下さいね。今回取得した船舶免許も就職の上で大きな武器になるのではないですか? 私と同業になる△子さん、これからの勉強も大変ですよ。でも大いにやりがいのある、そして楽しい仕事ですよ。それは私が保証します。
最後にもう一人を連れて初日に行ったパブに飲みに行きました。そこではマスター、女の子に免許を取った旨報告をしました。おめでとうと云っていただきました。尾道の最後の夜、どう考えてももう尾道に来ることはなさそうだけれど、でも数年経ってふともう一度行ってみたいと云う衝動に駆られ、そして時間があれば.....、とも思います。とにかく時間がゆっくり流れている、そんな処が未だ日本にあったことを知り得ただけでも来た甲斐がありましたよ。どうも日本人は、否、東京人はあくせくし過ぎですよね。私はそう思います。でもあくせくしないと生きていけない、子供を育てていけない。ましてや地域に根ざし地域医療に献身するしかない私にとってこの街は束の間の逃げ場だったのかも知れません。だったらまた疲れたらここに逃げてくれば良いのでしょうか? 少なくも講習や試験に追い立てられることはないのですから.......。