薬の添付文書
5月18日のDairyに薬のことでブツブツ云いながら書きました。なんとも訳の分からない状態になっている薬剤事情、私も責任のあり方も含めて大いに云いたいことがあり、改めてこのGrumbleを書くことにしました。
次から次へと”Drug Safety Update”と云うイエローレターってのが来ます。分厚い書類.......。出所は日本製薬団体連合会? でも一番の黒幕は厚生労働省医薬局、ここにも監修とつけて責任を回避する姿勢が見て取れるのは、私のうがった考え方故でしょうか? 堂々と厚生労働省医薬局と大きく書けば、よりこの書類の重要性が強調されるように思うのですが。
こんな書類が随時、週1回くらいのペースで郵送されてきます。各書類には最重要、重要、その他に分類され、いろいろと注意事項が書かれています。もちろん、重得な副作用が出たときには、これをしっかり理解しておきますが、何万人に一人と云う稀な副作用報告も、如何にも明日にでも起きるような印象を持たせる書き方で書いてあります。かつてユリノームと云う尿酸排泄促進剤によって劇症肝炎を起こし、8人中6人が亡くなった旨報道されました。私もその直後から処方を控えるようになってしまいましたが、これも追跡調査では因果関係があいまいなようです。とどのつまり、たった1剤だけ服用している患者さんと云うのはむしろ少なく、そのターゲットになった薬の因果関係が否定できないと云うところで、我々の処方にはブレーキがかかってしまうんです。
ある医学雑誌に掲載された添付文書に対する医師の不満として使用上の注意の記載が不充分、どの副作用が重要なのか分からない、添付文書に記載されている副作用が多すぎて(頻度の高いものも殆ど見られないものもゴッチャで)、患者さんにそれを説明すると患者さんがびびっちゃう、慎重投与の意味が不明、授乳婦や妊婦に対する記載がおかしい、小児への投与の記載がない、などなどたくさん出てきます。不都合の一番の理由は法的な規制、全ての薬剤の使用禁忌に”本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者”ってのが必ず書いてあります。一度使っておかしくなった薬を、また同じ患者に使う馬鹿はいるまい? でも法的にそう効能書きに書かなきゃ行けないことになっているんです。これ省くだけで医薬品集の厚ぼったい本は1cm薄くなるぜ。でもそれを書かなきゃいけないと云う法律がしっかり出来ているんです。
まあ正直なところ、もうこれ以上イエロー・レターが来たって頭には入らないと云うのが本音です。確かに妊婦や小児の安全性が確立されていない薬が多く、そんな意味でも治検にもっと優遇策を作るべきだとの声もありますが、これもなかなか難しいでしょうね。子供をボランティアに仕立て上げるのは厳しいでしょう?
我々医師の側で最も困るのが、何か薬によって有害事象(患者さんにとって不利益となる副作用など)が起きた場合、医師側に責任が問われる際に、この訳の分からない添付文書が判断(つまりは裁判にて採用される資料)のスタンダードになることなんです。この欠陥だらけの文書の記載内容が全ての医療機関の”医療水準”として判断されることに、あるアンケートで「当然だ。」と答えた医師は僅かに2割しかいないんです。厳しすぎるとか文書に問題(私は敢えて欠陥と云いましたが)があり不合理だと答えた医師の方が圧倒的(小泉首相の支持率並み)に多いんです。一方で薬には裏技的な使い方があります。例えば最近でこそようやく認められるようになりましたが、小児用バファリンが抗血小板薬として用いられていました。当時はもちろん子供の解熱剤としての用法しか書いてありませんでしたが、どこの医療機関でも心筋梗塞や脳梗塞の予防薬として使われていました。もしこの薬に新たに重大な副作用が現れたとしたら、効能書きに書いていない使い方をしたかどで、たまたま処方していた医師は責任を負うことになるんです。一方でこれだけコンセンシャスが得られていたにも関わらず、保険適応外として保険点数を削られた医師もいるんですよ。漢方薬で補中益気湯と云う比較的体力の弱い人の胃腸炎、風邪、痔にも用いられる薬があるんですが、この薬、痩せた人の遊走腎の背部痛や腰のだるさに良く効くんです。私もある程度のコンセンシャスが得られ、自分の診療においてもそこそこの効果を認めていたので患者さんに処方していましたが、ある時バッサリ点数を削られたことがあります。
まあこの問題はまだまだ時間がかかりそうですが、腰の重いお役人が取り仕切っているところ。首相の交代とともに、もっと効率的に、そして素早い対応になるようお祈りするしかなさそうです。