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医者には本当のことを言って!


 患者さんのウソを見抜くのも医者の仕事のひとつ、でも所詮人間ですから騙されることもあります。「こいつウソ云ってやがるな?」と思っても、特にその後の方針に差し障りなければ敢えて突っ込んで問いただすことはしていません。でも.....、患者さん自身の命に関わる患者さんのウソ、これは困りものですよ。若い女の子だってSexをするでしょうし、男性であればちょっと遊びに行くことだってあるでしょう。そんなことをいちいち気には留めていません。だから、医者にはホントのことを話して下さい。医者には厳しい守秘義務があるんですから。
 過日、下腹部痛を主訴に若い女性が初診で来られました。Columnの”触診の妙”でもお話ししましたが、我々には患者さんのお腹からの返事と云うのが分かります。そして本能的に触った瞬間に私の守備範囲である消化器系の徴候なのか、或いは私の守備範囲外の、主に婦人科系の徴候なのかはだいたい判断が出来ます。この患者さん、私の守備範囲外と判断しました。だから婦人科に行きなさいと云うのは簡単なのですが、やはり急を要するのか、あるいは1日待って良いのかは本人に云ってあげるべきと私は考えています。この患者さんのお腹、やはりかなりイヤな感じがするんです。お腹の大きい妊婦さん以外で婦人科系統の疾患で緊急を要するもの、まずそれは子宮外妊娠と卵巣嚢腫の茎捻転です。やはり緊急を要するお腹と云うのは何ともイヤな感触があるんです。例によって「妊娠の可能性は?」と尋ねると、「ありません。あるわけがありません。」と否定されます。暫し悩んだ挙げ句、知り合いの婦人科の先生に電話し、患者さんには直ちに診てもらうように指示しました。結局診断は子宮外妊娠の破裂、その日のうちに緊急手術になりました。ホントに恐ろしいですよ。「まあ1日様子を見ましょう。」と云ってその女性を家に帰したら、恐らく翌日には手遅れ、残された家族から私が訴えられることになる訳です。「本人が妊娠を強く否定したから。」と云う言い訳は通用しないでしょう? Columnの”触診の妙”で書いた女子高校生も全く同じシチュエーションです。大学の学生時代に婦人科の講義で聴いた話、やはり10代の女性が妊娠を強く否定したものの、調べたら絨毛上皮腫、これは胎盤から発生する悪性度のもの凄く強い腫瘍です。もちろん胎盤から発生するので、妊娠していなければ出来ない腫瘍です。この人は結局命を落としたそうです。
 当院では尿道炎、膀胱炎の患者さんも多数来られます。そして男性にはそんなことを疑った時には「いわゆる悪い遊びをした心当たりがありますか?」と尋ねます。男性の場合まず殆ど正直に話してくれます。それによって処方する抗生物質の種類は違ってきます。ある日、尿道から膿性の分泌物が出て排尿時の痛みがあることを主訴に来た男性患者さんがいました。例によってお尋ねしましたが、憶えはないとのこと。何となく淋病のような気がしたのですが、本人に見覚えがないのであれば他の細菌だろうと判断してニューキノロン系の抗菌剤を出しました。数日後来院され、症状は幾分楽にはなったがあまり芳しくないとのこと、初診時に取った尿道分泌物の培養検査の結果を見てみると、起因菌はGonococcus(淋菌)。「確かあなたはそんな憶えはないとおっしゃっていましたよね?」と私が尋ねると気まずそうな顔、あまり深く追求はせずに「医者には本当の事を云って下さいよ。」と申し上げ、one shot で治る注射をしてアッという間にその患者さんは治癒となりました。私が処方したニューキノロン系の抗菌剤数日分は本人負担分、保険支払い分ともに無駄になった訳です。文献では銭湯の床にお尻をベタッとつけて座っていた女児に淋菌が感染したと云う報告がありましたが、原則粘膜同士の接触がないと感染しない病気です。ホントに憶えがないのであれば、私は文献を書いて症例報告をしなければなりませんね。
 そんな患者さんの気持ち、理解できない訳ではありませんが、時に医者にウソをつくこと、隠すことがご本人の身体に重大な結果をもたらす可能性があります。患者さんの申告が治療方針に大きな影響を与えます。我々の仕事の中で特に一番重要なのは的確な診断をすること、その診断に至る過程で一番大事な情報は皆さん検査だと思われるかも知れませんが、そうではなく一番大事な情報は問診から得られるものなのです。病名の決定は7割が問診によって決定されるとの文献もあります。それが間違っていたり、不足していれば当然診断の誤りに繋がる訳です。医者には本当の事を云って下さい。