205円ルール
最近新聞で保険診療に関わる205円ルールと云うのが話題になり、なおかつ医者バッシングに伴ってこれがやり玉に上げられています。私の解釈、205円ルールとは患者さんのためのもの、それを我々医療機関側があたかも不正を行う場として、確たる証拠もなくまるで保険金を搾取しているような報道をされており、事の真実を皆さんに知ってほしくこのGrumbleに書きました。
そもそも205円ルールとは、保険点数で20点以下、つまり1日薬価が205円未満の薬についてはレセプト上に薬剤名を記載しなくても良いと云うルールなんです。例え1日薬価が10円の薬を出しても20点としてレセプトに記入すれば1日190円、1ヶ月28日として5320円、慣例的に4つまで(つまりあと19点、18点、17点の薬剤)を併記できますので、合計20720円まで、もし患者さんに薬を出さないで出したことにすれば、一人当たり1ヶ月に20720円搾取出来ると云う計算になります。神に誓って断言します。私は院内処方だった時代にこれを利用して過大請求したことは一度もありません。しかし、新聞や週刊誌の報道では、これを利用して多くの医療機関が診療報酬を過大請求している、そしてここに現在の保険医療の逼迫の原因があるように書いてあるわけです。これは多くの医師が、医療機関が保険金詐欺をしていると、何の証拠もなしに書き立てているのと同じです。確かに少数ではあるけれど、そんなことをする医療機関がないわけではないでしょう。そんなところは保険医登録が抹消されます。保険医登録が抹消されれば確実にそこは潰れます。潰れた医療機関も確かにあります。そして更に我々医療機関も淘汰される時代、流行るところと流行らないところと二極分化されてきています。新聞が偉そうに書いていますけれど、もう我々医療機関にも競争原理は充分浸透してきています。私はそれで良いと思っています。だからこそ患者さんに対して誠心誠意努力をするわけです。
レセプト上では全ての診療行為に対して、それを行うに至った原因となる病名を記載しなければならないことになっています。「先生、今日は頭痛薬を少しくれませんか。」「風邪は殆ど治ったんですけれどトローチだけくれませんか。」「腰が痛いのでシップだけ下さい。」こんなことは日常診療でざらにあることです。患者さんはいとも簡単に我々に要求を出されます。「腰が痛い?じゃあベッドに横になって診察させてください。腰骨のレントゲンを撮りましょう。」と云えば、「それなら湿布は結構です。」なんてこともざら。患者さんは気軽な気持ちで我々に要求を出すわけです。もちろん一町医者としてはそのような気軽な要求にもすぐに対応していこうと頑張ります。大学病院なら「じゃあ、整形外科を受診してください。」のひとことで済んでしまうことなんです。常々私は考えています。もっと患者さんの側にも医療保険のシステムを勉強して欲しいと。例え1点の便秘薬を出すにしても、カルテ及びレセプトには便秘症の病名を記載しなければなりません。もしそれを書き損ねれば、その疾患に対する薬剤費を全部カットされます。「忘れていました。」と訂正することすら出来ません。だから病名漏れがないようにしっかりチェックしてくださいと医師会のお偉方まで宣います。国が無計画に進めてきた医療財政が逼迫してきたために、如何にしてその出費を抑えるか? もう恥も外聞も、そして遠慮もなく我々医療機関に後始末を押しつけてきています。現在日本医師会は署名運動を行っています。日本医師会から送られてきた文書です。
患者負担増反対の署名運動について(お願い)
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は日本医師会の会務遂行にご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
先般公表された厚生労働省の「医療制度改革試案」は、経済財政諮問会議、総合規制改革会議の意向を受け、基本的には当面の財政収支に終始したものであります。
厚生労働省の改革案は、日本医師会が提唱する患者さんのための健康維持・増進を図り、医療、保健、福祉の向上に努めるべき国の責任についてはまったく言及せず、財政主導によるこのような改革案では、国家のあり方を誤った方向に誘導しかねず、行政府の見識が疑われることを政府は認識すべきであります。
戦後、わが国は、先進諸国の中でも極めて低いコストで、公平・平等に国民に良質な医療を提供し大きな成果をあげていることが、今日、国際的な高い評価につながっております。この制度を支えているのが、国民皆保険体制、現物給付制度、フリーアクセスの三つの柱であります。この世界に類をみない優れた制度は、貴重な国家財産であり、今後とも堅持しなければなりません。
この制度を持続可能にすると称して、専ら医療費を引き下げるばかりでなく、更に大幅な患者負担増を押しつける改悪には日本医師会は断固反対します。
日本医師会は反対運動を強力に進めるために、先生方のご尽力により、一人でも多くの患者さんから反対の署名を集めていただきたく、ご協力をお願いいたします。先生方にお集めいただいたご署名は、国民の切実なる願いとして国会に請願し、所期の目的を達成する決意でありますので、格段のご支援を賜りますようお願い申し上げます。
何故保険医療が逼迫してきたか。それはそもそも国の考え方が甘いから、それ以外のなにものでもありません。医学の進歩に伴い、今まで生きていけなかった人が命を取り留めるようになって、それに付随して経費がかかるのは当然です。医療費が膨張しなかったら、日本が世界一の長寿国になり得るはずがありません。不況になって、財布が軽くなれば我々は贅沢で不要な買い物を控えます。遊びに行くことを控えます。自身の収入が減ってきたときに、医者にかかるとお金がかかるからと抑えることが出来ますか? ましてや医者にかからないで済むように細心の注意を払って健康に気を遣いますか? 不況は健康管理反故の動機にはなりません。つまり、医療とはその時の社会情勢と連動はしていないのです。財政が苦しければ、渋滞するのを我慢してでも道路の拡張工事は抑えざるを得ないでしょう? 今の政策は特に老人達に年老いたら死んでくれと云っているのと同じだと私は解釈します。公園や住宅や道路よりも人の命が大切であることは誰が考えても明らかでしょう? 聖域なき構造改革と称して医療をないがしろにすることは、人の命の価値と公園や住宅や道路の価値を同一視していると云わざるを得ません。一番大事なものに携わる、私はそんな覚悟をしてこの世界に身を投じて来たのです。だからこそ、研修医時代は4万5千円の月給でも頑張って仕事をしてきたわけです。皆さんも是非、そんな事情をよく勉強して、如何に国がこれからひどいことをしようとしているのか、見破ってもらいたいと考えています。