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社説の矛盾と無責任

 過日ある新聞の社説が2編同時に掲載されていました。一方的な論調で議論することを否定し、更にその二つの社説が関連部分で矛盾を含んでいることで非常に奇異に感じました。マスコミは責任を取らない実態のない存在、しかしとてつもない強力な武器を持っている、しかもその武器の危険さに気付いていない、政府のだらしなさもさることながら、この廻りをウロウロする野次馬的マスコミの横行に日本の斜陽を見る想いです。
 まずは社説の1編目、”議論の蒸し返しより改革を急げ”と云うテーマ。今年4月からサラリーマンの医療費自己負担が二割から三割に引き上げられる事に対して、現在野党四党(実際には与党の中にも多くの疑問視、慎重意見が出されている)が反対を表明している事への批判。社説の文頭に”すでに決着済みの問題を、なぜ、今になって蒸し返す必要があるのか。”で始まっています。これは決して決着済みの問題ではありません。数で押し切る形で、しかも与党自らの仲間内にも反対する意見がありながら強引に決めたもの(張本人はあのスキャンダル{親子どんぶり希望}を乗り越えた山崎さん)で、まだまだ議論の余地も残されている問題なのです。強引に既成事実を創り上げ、あとはなし崩し的に事を推し進めるのは、昔から国や政府、官僚達がやってきた得意のやり方です。この筆者は決着と決めつけていますが、その決着と彼(彼女?)が呼ぶものが出来上がってきた過程を理解せず、議論することを拒否している(小泉さんですら議論することは大いに結構と云っています)この文頭だけで、こいつは大したことない、勉強していないと云うことが露呈されます。
 ”党内には間近に迫る統一地方選挙への影響を懸念し、引き上げへの慎重論も出始めている”ことに対して、”自民党も自民党である”などと一刀両断に切り捨てていますが、自民党の一部の議員が統一地方選挙への影響だけを考えている、患者の窓口負担増が受診の抑制につながり、医療機関の収入が減ることへの危機感が根底にあると自分で勝手に断定をし、それだけの狭い視野からしかものを云えない(書けない)愚かな人間であることが分かります。受診抑制によって一般の人々がどんなに不利益を被るか、ことの本質を完全に見落としている人間が”改革を急げ”なんてたいそうなことを云えるはずがありません。ましてや議員にとっては支援団体が、支援する個人があって初めて国政の場に上がれる現況を全く理解しようとしない、もしこんな奴が選挙に立候補すれば公約違反の連続であることは火を見るよりも明かです。数で押し切るだけではなく、少数意見、Minority Reportもそれなりに議論の場に上がってくる資格があることがようやく認められつつある昨今です。1編目の後半では、危機的な医療費について、自分の目に触れた数字だけを羅列してものを語っていますが、日本の医療費が安いとは考え及びもつかないようです。既に昨年10月の保健改訂で政府管掌保険は黒字に転じ、三年後には推定1.5兆円の金余り、現在の日本の医療費がGDPに占める割合で世界で18位、世界一とも評される日本の医療にかけるお金が世界18位だと云うことが全然理解されていません。国民医療費30兆円、安いものではありませんか。公共事業に注ぎ込まれるのが60兆円、車が通らなくて赤字になるような高速道路を造るのを辞めて、その半分でも医療費に廻せば国民の医療費負担は要らなくなります。高速道路の建設と人の命を救うこと、どちらが大事かは小学生にも分かるはずです。小学生にも理解できることが理解出来ない奴がペンと云う強大な武器を持って大衆の目に晒されるメディアに文章を書く、考えただけでも恐ろしくなります。
 自民党の山崎拓幹事長は2月24日付で自民党都道府県連に対して、地方議会での「三割負担凍結」決議案などには反対するよう通達を出しましたが、都道府県議会を中心にこの凍結意見書採択や四師会の請願書に全会派が賛同するなどの動きが拡がっています。一方、野中広自民党前幹事長は自民党執行部の対応を厳しく批判、特に議会決議への反対の指示は「国民政党のやるべきことではない」と述べています。そう、だから未だ決着済みの問題ではないのです。まだまだ凍結に向ける気運は衰えていません。民主政治がないがしろにされ、不勉強極まりないマスコミがそれを後押ししている構図なのです。
 2編目の社説、これは”株式会社の参入拡大が課題”と云うテーマで書かれていますが、恐らくこれは他の人間が書いた文章、もし同じ人間が書いたとしたらこれは統合失調症の診断が下るはずですが。ここでは株式会社による病院経営は、医療高度化に応じた施設準備の資金調達を容易にし、病院経営の透明化を高めることで効率的で室の高い医療が期待できると書いてあります。本気でそう思っているのでしょうか? むしろ国や自治体は株式会社を参入させることで医療の公的な色彩を薄め、より健康保険の負担率を押し上げるのが目的ではないかと考えています。高額な医療器械を導入するのは殆どが大学病院や国公立病院、大手の医療法人の病院、しかもそれら大病院だけで国民医療費の3/4を使っているのです。ここに利益追求のための資金が流れ込んだら、ますます保険医療は破綻への道のりの速度を速めるのは考えても分かるでしょう。我々は医師法で利益追求することを禁止されています。少なくもそれが抑制的な効果をもたらしていることは事実、そこへ利益目的の資本が流入すれば、患者がどういう扱いをされるか火を見るよりも明かです。少なくも私はそんな病院へ自分の患者を紹介することは出来ません。株式会社が入ってきてどうして病院経営の透明化を高めることが出来るのでしょうか? ますます裏で汚い金が行き来し、患者は二の次になるはず。長野県知事が何故株式会社の導入に積極的なのかも理解できません。何か密約でもあるのでしょうか?
 価値観の違いだけでは済まされない、何が一番大切なのかを議論しないで改革と叫ぶだけなら、これは子供でも書ける文章ではないかと、社説なんておこがましいと私は考えています。そもそも社説なんざ順番で何か書けと云われた新聞社内の個人が一人で文章を書き、それを編集長がOKの判子を押すか押さないかでもう社説欄に埋め込まれることが決まるのではないかと私は勘ぐっています。大勢の社内の人間で充分な議論をして、吟味、推敲されて出てくるのであれば、こんな社説が掲載されるはずがありません。センセーショナルなタイトルだけで読者や視聴者を引きつけようとするマスコミ(トルシエ元日本代表監督の言葉)に我々が第一線で取り組んでいる医療が、それも世界に誇れる医療が批判されることに、更には社説欄のスペースを埋めるためだけに熟慮のない論文が掲載され、多くの読者の目に晒されることに心底不快な思いを持っています。