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患者さんの不満

 患者さんは我々医療機関に対し、様々な不満のあることが取り沙汰されます。我々にとっても非常に気になることではありますが、正直なところ、それに充分お答えできるようなチャンスがなかなかないことに懸念を抱いています。時に直接クレームを受けたり、職員からこんな声がありましたと報告があったり、時には怒鳴られたり。出来るだけご不満を解消すべく努力をしているつもりではおります。最近の医療家向けの雑誌にもこんな特集があり、興味をそそられました。このコラムでは当院や記事の中でどのような患者さんの不満、クレームがあったか、更にそれについて私自身の反省、あるいは言い訳等を書いてみたいと思います。ある雑誌の記事では、患者さんの8割近くが医療機関について不快な経験をしたことがある旨書かれていました。これは驚異的な数字ですね。思わず、当院の患者さんも8割(現在まで約1万4千人の患者さんが来院されていますので、1万1千人あまりの患者さんが?)の人が不快な思いをしたのでしょうか? 町を歩いていたら石をぶつけられそうですね。それから現在の通院先に満足している患者さんは、全体の5割強だそうです。それでは残り半分は満足していないのに通院していることになりますね。ホテルやデパートでもこのような統計を出すと面白いでしょうね。ちなみに私自身もホテルやデパートで不快な経験をしたことはあります。私は単刀直入な人間なので、そのまま文句を云ってしまいますが.......。ちょっと長くなりそうなので、このコラムでは患者さんの不満というテーマで第一部から第四部まで細切れにして書いてみたいと思います。

 不満のトップは我々の説明や言葉遣い、態度だそうです。言葉遣いや態度というのは、その医師それぞれ個人の問題だと思います。しかし、インフォームドコンセントが叫ばれて久しくなりますが、なかなか患者さんの納得のいく説明をするというのは難しいものなんです。どの程度まで説明をすれば患者さんは納得してくれるのでしょうか? かなり専門的な知識を持った人もいます。その分野で自分の知識の最高のレベルまで掘り下げて説明した場合、それをきちんと理解しながら分かってくれる人もいれば、全然チンプンカンプンになってしまう人もいるでしょう。「イヤイヤ、先生にお任せしておりますから結構ですよ。」とおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。

 最近こんなことがありました。私の知人のお父さんが手術の必要な病気になり、もと私の勤務していた病院を紹介しました。主治医は以前の私の上司で、術前の家族への説明にも私は立ち会うことにしました。昔の勤務医時代は、自分自身が患者さんや患者さんの家族に向かっていろいろ説明したことがありました(ドイツ語のMondtherapyからムンテラと云います)が、久々に聞く説明は10数年前に私がやっていたものとはずいぶん違ってきていました。まず、悪性の病気でもきちんと本人に病名を告知します。私の時代には、例えば胃癌の患者さんには本人を交えて胃潰瘍の手術と云うことでムンテラをします。術式や術後の経過、起こりうるトラブル等々、そして本人や家族からの質問に答え、一度解散します。そして本人には内緒で家族だけにもう一度集まって貰い、説明の中の胃潰瘍の部分を胃癌に置き換えてもう一度似て否なるムンテラを繰り返します。だから手術承諾書は当時は2枚、胃潰瘍の病名の本人と家族が連名で署名した書類と、胃癌が病名の本人の部分が空欄で、家族だけが署名した承諾書両方をカルテに保管しておきます。その知人の場合は、連名の書類1枚だけです。そして治療法として、手術をする方法と、手術以外の方法を説明します。勿論手術をしなければ、恐らくは根治的な治療とはならないはずですが、いろいろな方法を提示して、その中から最善のものを患者さんに選択していただくというスタンスなんです。私の時代は「手術をしますから頑張りましょう。」で済んだのですが、現在ではそうは行かないようです。最後にその主治医の先生は「Tak先生と一緒にやっていた頃は、こんな複雑な手はずは踏まなかったんですがね。」と云われていました。噂には聞いていましたが、第一線はだいぶ様変わりしていました。私もこれに追随しなければならないのでしょうね。   

 言葉遣いや態度というのは時にちょっとした誤解からもこじれることがあると思いますが、やはり細心の注意が必要と思います。外来で医師に風邪をひいたみたいですって云ったら、風邪かどうかはこちらで判断すると怒られたという例が出ていました。これって志村けんのコントにありましたよ、笑っちゃいますね。私は最初にそう云っていただければ、こちらからの問診の的が絞れ、かえってやりやすくなると思っています。でも時に本人がそうだと思い込んでいるだけで、実は違う病気だったりすることがあるから注意が必要です。先入観というのは時に我々の判断をも狂わせることがありますから。

 人から物事を尋ねるというのは難しいことです。こんな困ったことがありました。いつも定期的に通院されるおばあちゃんです。おばあちゃんが椅子に座って挨拶します。私が第一声「如何ですか? お変わりありませんか?」ちょっといつもと様子が違います。いつもなら「変わりありません。」とおっしゃる患者さんが何か口ごもります。「どうなさいました?」「ちょっと今日は具合が悪いんです。」「どういうふうに具合が悪いんですか?」おばあちゃん、下を向いて考え込んでいます。「う~ん.....。」何か訴えかけたいことは充分見て取れるんですが、なかなか具体的にどうなのか云ってくれません。しばらく考え込んでから「どう云って良いのか分からないんですけど、具合が悪いんです。」「どこか痛いんですか?」するとちょっとニュアンスが変わってきました。「気分が悪いんです。」気分が悪いというのもちょっと難解な主訴です。「嘔気がしますか?」と聞くとまた同じように考え込んで「う~ん.....。嘔気はしないけれど、やはり気分が悪いんです。」ずいぶん時間を費やしましたが、具体的な答えが帰ってきません。こちらから「ねえ、○○さん、今日は少しお疲れではないですか? 昨夜はよく眠れていますか?」「う~ん.....。やはり気分が悪いんです.......。」「.............。」結局私はこの患者さんの訴えを聞き出すことが出来ませんでした。具合が悪くて、気分が悪いことは分かるんですが。結局今日はゆっくり休んで下さいということでお帰りいただき、後日来院時には具合は悪くなくなったとのこと。何だったんでしょうね?でも、これって人によっては、充分話を聞いてくれなかったってことになってしまうんですかね?

 医療機関において待ち時間が長いというのが、患者さんの不満に繋がるとよく指摘を受けます。正直なところ、早くしろと云われる上に、患者さん一人一人には丁寧に充分な説明をしろと、相反する要求を突きつけられ、我々は戸惑っています。だから当院ではなるべくその両者をうまく遂行すべく努力をしました。まず処置をする人と、内科的に話しをするだけでよい人とを分け、先に準備を整えて貰い、私が移動することによって時間を短縮するようにしました。当院の優秀なナース達は、積んであるカルテの5人、10人先まで目を通し、処置のある人は処置室に先に入れる、採血予定の人は先に伝票や採血管を準備し、更に時間がかかるようであれば先にお小水をとって貰う、こうすることによって、患者さんの待つという認識は幾分緩和されるように思いました。また患者さんにとって、自分があとどれくらい待たされるのかが分からないことが非常に不安だということで、5年前から当院では番号札とナンバーディスプレイを準備しました。つまり銀行と同じように、機械に診察券を入れると番号札が出てきて、あと何人待っていると云うことが分かるようにしてあります。あまりに後の番号であるならば、その待ち時間に買い物に行かれるのも良いでしょう。しかしそれが故に、順番にお呼びしたときに患者さんがいらっしゃらないと云うことも結構あります。ここでまた悩みがあるのですが、いらっしゃらなかった患者さんを後で何処に入れたら良いか? 次は自分の番だと思った人が、前に入られたと思いこむ可能性があります。私の友人のDoctorで(ここは非常に混雑する医院なのですが)、呼んだときにいなかったらその時点での一番最後に入れると云う人がいました。銀行でも、番号が通り過ぎていたら、もう1回取り直して下さいと書いてあるところもありますよね。私はこうは云い辛いと思っているのですが如何でしょうか?

 実は私も回答を寄せている医療相談のホームページにも、歯医者は予約制なのに、どうして医者は予約制に出来ないのか? という質問がありました。私もこの質問に回答を書いて送ったのですが、どういう訳か文字化けしてしまったとのことで没にされてしまいました。この機会に私の回答をご呈示します。
 回答
 身につまされるご質問というよりは、ご意見です。確かに私自身、日々の診療をしていて待合室が混んでくると非常に気になりますし、受付にも帰ってしまう患者さんがいないかどうかよく尋ねます。それと3分診療というのも耳の痛い話です。自分の理想としても、予約制で患者さんと10~15分くらい時間をかけてゆっくり話しが出来ればと思うことがよくあります。時には家族ともよく話したいということで、昼休みにおいでいただいて時間をかけて話すこともありますが。出来ない理由というお尋ねですが、確かに様々な状況から厳しいと思います。

 まず予約と来院いただいた順番との混在は非常に難しいと思います。当院では来院順番に診察券を機械に入れていただき、銀行のような番号札を発行しています。それでも手違いから順番を間違えてしまうことが時にあり、そのような場合は私自ら患者さんにお詫びを申し上げますが、それでも許していただけない患者さんが時にはいらっしゃいます。あの人の方が後から来たのにという言葉をよく聞きます。かつて受付には処置や注射の都合で多少順番が前後することがありますと張り出しておきましたが、結構トラブルが起きたので、今では張り紙を破棄して、順番通りを堅持しています。おでこから血を流しながら入ってくる患者さんであれば話は別でしょうが。現在では受付の職員がカルテを並べる順番を間違えると、私は非常に怒っています。

 また診療時間が短いというのも予約制を取れない理由になるかと思います。生臭い話しで申し訳ありませんが、耳鼻科であれば再診の点数が74点、何らかの処置、あるいは処置をしなくても処置料、若しくは外来管理加算で42点、診療所の収入は1160円です。ゆっくり話しをしても時間をかけることに関して加算はありません。もし1人10分話しをして1時間に6人、これで合計6960円。当院ではこの金額では1時間当たりの受付及び看護師の人件費にも足りません。キャンセルでも出ようものなら、結婚式場やホテルと同じく違約金でもいただかないとならないでしょう。ちょっと極端ではありますが、これでは診療所運営は成り立ちません。国民皆保険になり、日本経済が成熟してきて、皆さんが公平に医療を受けられるようになりました。昭和20~30年代前半は決して公平とは云えなかったようです。そして更に悲しいことに、我々も他院との競争を強いられ、患者さんの数をこなさないと生き残れないというのが嘘偽りのない実感であり、実体だと思います。

 こういう言い方では歯科の先生に怒られるかもしれませんが、医科、特に町医者では様々な疾病の患者さんがいらっしゃるため、診療そのものがあまり定型的になりません。通常血圧を測って、話を聞いて、処方箋を出すだけであればそのあと数人の入室時間はある程度予測がつくかもしれません。初診の患者さんが来院されれば、それは又時間がかかります。レントゲンを撮ったり、急いで処置室で処置を行ったり、時にその場で書類の記載をしたり。診療時間が短い人もあれば、時間のかかる人もあり、また同じ患者さんでも、日によって診察室の中にいる時間を予測するのは不可能です。大学の産婦人科の先輩に云われたことがありますが、「僕の患者は全員パンツを脱ぐんだから君の所よりも一人一人時間がかかるんだよ。だから1日何人が限度だな。」と。ごもっともです。当院と連携をしていただいてる都立病院、日赤等では専門外来で予約制をとっている時間がありますが、患者さんからは予約したのに2時間待たされたとかよく云われます。勿論、外来患者数は大病院の方が多いわけですが、そのような病院には外来担当の先生がたくさんいらっしゃるわけで、1日当たり、医師1人で診る患者さんの数は我々町医者の方が多くなってしまうことがままあります。結局保険診療を行う以上は、予約制などと悠長なことは云っていられない、これが本音です。アメリカではむしろ保険診療より、自由診療でゆっくり時間をかける診療の方がステイタスが高いとされています。しかし、個人が払う医療費も医師の報酬もべらぼうです。アメリカで大腸内視鏡の技術のみで100億の蓄財をした日本人ドクターもいます。

 逆に良い解釈をしていただけるなら、 あなたが通われる耳鼻科の先生は、良い先生だからこそ患者さんが多くて待ち時間が永くなってしまうのではないでしょうか? 私はラーメンが好きでよく行ったことのない店を開拓しますが、食事時に閑散としている店には入りません。美味しい店はやはりお客さんが並びます。私自身が銀行へ出向いて、いろいろな手続きをすることがありますが、やはり番号札を取って椅子に座って待ちます。電話連絡してすぐにやってくれとは云えません。結局これが公平、あるいは平等ということになっているのではないでしょうか?

 現在の保険制度は昭和30年代前半に出来上がったものです。医療技術は進歩し、我々の覚えるべきこと、やるべきことは爆発的に増加してきているにも関わらず、患者さんに対して保証すべきシステムは古いままなんです。一方で医療費抑制のみがマスコミに焚付けられて叫ばれ、まして医療財政は破綻寸前です。社会が成熟して、それを緩和させるために、一般の業者も参入させようと介護保険が導入されます。その解決策ですら、総選挙を睨んでフラフラしている始末です。厚生省は抜本的な改革をと云っていますが、改革とは患者さんにも我々医師にも犠牲を強いる以外のなにものでもありません。厚生省主導で作成された診療報酬体系の見直しに関する中間報告でも、中央社会保険医療協議会の委員ですら、「いったい何を目指しているのか? ビジョンが見えない。」との批判が出ているほどです。是非あなたにも、どのようにすればあなたも私も理想と考えられる医療が出来るのか、私と一緒に考えていただきたいと思います。
 というのが私の回答です。如何でしょうか?

カルテの開示と云うことがよく云われています。領収書や検査内容についても詳しく明らかにされたものが欲しいとと云うご不満のようです。当院では血液検査や病理検査の報告書はコンピューターに入力した後、それぞれご本人にお渡ししています。しかし、日々の診療に追われ、カルテがいい加減にならないよう努めているつもりではおりますが、汚い字で急いで書いたカルテを見せろと云われるのは辛いところです。でも我々ももはやイヤとは云えないようです。最近さっと患者さんに見せられるようにと、カルテの電子化、つまりコンピューター内にカルテを置き換えることをもくろんでいます。患者さんからのアンケートで面白いものがありました。パスワードで保護した上で、オンラインで自分のカルテがいつでも見られるようにして欲しいと云うのがありました。これ良いですよね。でも悪いハッカーに丸ごと持って行かれたり、メチャクチャに書き換えられたりしたら困りますね。今市販の電子カルテのソフトが幾つか出てきています。どれも数十万円する高価なものですが、ちょっとムッと来るのが、ソフト的に書き直すことが出来ないと云うものがありました。つまり、後から我々が改ざん出来ないようにと云うことらしいのですが、我々医師はそこまで一般の人からの信頼を失っているのでしょうか? 悲しくなりますね.............。
 以上長々とおつき合いいただきましたが、患者さんの不満ということでコラムを書いてみました。なかなか難しいですよね。いろいろな意見を取り入れながら、より良いものを目指していきたいと思っています。全ての人が満足のいくようにと思うと、こちらもPanicになってしまいます。最大公約数的な部分で模索して行くしかないようですが、皆さんどうお考えでしょうか? 是非御意見を賜りたいと思います。