アメリカナイズ
よく日本の事情を議論するときに「欧米ではこうだ」と云う云い方をします。なんか欧米の真似をしていると一安心とつい考えてしまうことがあるように思います。しかし、日本には日本の文化があり、必ずしも欧米に習えが良しと云う訳ではないと思います。昔は舶来品とか外車と云う言葉が非常に魅力的に聞こえました。でも今や国産車は性能、耐久性、装備などからも世界トップクラスですし、故障しにくいと云うことでは誰も反論がないと思います。アメリカナイズすることが必ずしも良いとは限らないんですが、やっぱりダメですね。こんなことがありました。
木曜日は原則、私は大学からパートで来ている先生に外来を任せ、free になっています。雑用を済ませ、子供の保護者会とかで女房とのデートにもふられた私は、一人であるファミリーレストランのカウンターでランチタイムとなりました。結構空腹だったので、サイコロステーキとチキンのグリルと云うちょっとランチとしては贅沢な?(¥1230-也)セットをオーダーしました。私が食べているところ、隣の空席に20代後半から30歳くらいの男性が入ってきて座り、私の食べているものをジ~ッと見ています。私は「これが食べたいのかな?」と横目で考えていましたが、突然彼が「それはこれですか?」とメニューの私が食べているセットの写真を指さして尋ねてきました。「ええ、そうですよ。」と私が答えたところ、「美味しいですか?」とまた彼が尋ねてきます。まあ私としては味には結構満足していたので「うん、なかなか美味しいですよ。」と答えました。どうやら彼は私と同じオーダーをしたようです。これ、何気ないような会話と思われるかもしれませんが、私はこの時いろいろ考えたんです。
まずそもそも日本人には何気なく見知らぬ人に話しかける習慣があまりないんですね(街頭ナンパは別でしょうが)。よく外人とすれ違うとき、偶然目が合うと「Hi !」と彼らは気軽に声をかけてきますし、こちらもつい抵抗なくニヤッと微笑み返しをしてしまいます。これがもし日本人相手だとどうなるでしょうか? 私が見知らぬ男性にニヤッと微笑みかければ「こいつホモか?」と思われてしまうでしょうし、女性だったら「何? このおじさん、ナンパ?」と思われちゃうでしょうね。それが外人相手だと何の抵抗もなくと云うのが何とも不思議です。ファミレスでの1件のようなことがアメリカで起きると、本来私の答えとしては「うん、美味いよ。味見してみるかい?」と云って肉をフォークに刺して聞いてきた相手に差し出す.........。アメリカではこんなことが日常だと何かの本で読んだことがあります。私が彼に肉を差し出したらどんな反応をするでしょうかね? ただ彼のそんな質問ぶりが、もしかしたらこいつ、アメリカ生活が永かったのかな? と考えさせられました。しかも彼は仕事中にも関わらず小さなグラスではありますがビールを1杯飲んでいました。食事が来るのを待っている間にも一生懸命仕事の資料に目を通していましたし、ちょっと彼の行動に私は好感を持ちました(決して私はホモではありません)。私が退席するときは彼に「じゃ、お先に。」と一声かけましたが、それ以外の会話はありませんでした。でもポカポカ陽気と相まって、何となく良い気分でレストランを後にしました。
医療関係に目をやると、薬の処方でも日本とアメリカでずいぶん違ってくるようです。例えば降圧剤の場合、血圧の高い患者さんに血圧を下げるために降圧剤を処方するとします。まずその患者さんの状態に応じて、最も適すると思われる薬を1剤出して服用していただき、様子を見てまた血圧を測定します。もし、ここで充分な血圧の下降が得られなかったら…….? 私も含めて日本では違う薬に換えるか、もう1剤別の作用機序の薬を追加することが殆どだと思います。しかしアメリカでは、同じ薬の量を増やすことが多いと聞いています。バイアグラの場合にはもっと困ります。バイアグラの有効率は75~80数%ですから、10人に1~2人は満足できる効果が得られません。当院でも同じような統計になっています。アメリカではバイアグラの1回量を増やしてしまうようです。もともとバイアグラに限らず、アメリカ人は体格の差もありますが、日本人と薬の用量は明らかに違います。バイアグラの場合でも厚生省が認可している1回容量は50mgですが、アメリカでは100mgがスタンダードです。では私が50mgのバイアグラの処方をした患者さんに満足して貰えなかったら? とてもとても「1回に2錠飲んでください。」と云う勇気はありません。文献では50mgより100mgの方がより効果的であることは、統計的に証明がなされています。でも日本でバイアグラを服用して、不幸にして亡くなられた方は、殆どが個人輸入ものの100mgの錠剤だと聞いています。容量を増やせばもちろん主作用はより効果的になってきますが、当然副作用も増えてきます。つい最近シサプリド(日本の商品名で、アセナリン、リサモール)と云う消化管運動賦括剤が、心臓に関する副作用についての死亡例が多いと云うことで発売中止に追い込まれました。日本でも多く使われている薬ですが、この薬の服用1回当たりの用量はアメリカでは日本の6~10倍だそうです。日本ではこの薬に関する副作用報告はあまりなく、この副作用を起こしやすくなる併用薬の禁忌だけが明示されています。我々のところには未だ具体的にこの薬の扱いについての指示は明確にはされていません。外用薬についても同じ成分でアメリカのロゲインは日本のリアップの2,5倍の濃度です。この外用薬も心臓に関する副作用が明るみに出てきました。
医師に対する訴訟も日本とアメリカは全然違います。アメリカの請求額はべらぼうです。数年前、アメリカで中年の女性が腹部の脂肪吸引をして、へその位置がずれたからとの理由で日本円にして請求額3億円の訴訟を起こしました。私に云わせれば、3億円貰えるなら私はおへそ要りません。どうやら日本も訴訟の請求額はアメリカを追いかけているようです。それなら医者の地位も収入もアメリカ並みにしてよね、と云いたいところです。我々医師の雑誌や本にも、医療訴訟のことがずいぶん書かれています。いろいろな事例が具体的に、詳細に書かれており、痛切に感じます。最近読んだものでは、訴えられることに臆するなとまで書いてありました。でもいきなり証拠保全でカルテのコピーでも取られたら、やはりびびっちゃいますね。
アメリカナイズされることも良い部分では歓迎しますが、日本の文化を大切にすることも忘れてはいけないと思います。「男女が並んで歩くときは、女は3歩遅れて」なんてのは今やナンセンスですが、ファミリーレストランでふとあったことで、こんなことを考えてみました。日本は20年遅れてアメリカの後を追いかけているなんて聞いたことがあります。日本の良い部分は残して、悪い部分は欧米を見習ってと行きたいところですが、なかなか難しいでしょうか? でも、絶対麻薬と銃だけは持ち込んで欲しくないですね。