成果主義続々導入
新入社員の初任給が出たことから、4月30日の新聞に「成果主義続々導入」と題して大きな記事が載っており、興味深く読みました。新大卒男子の初任給が19万円代半ばのところに、ある大手証券会社の新入総合職社員に初任給として30万円が振る舞われたとのことです。私は羨ましいなあと思うどころか、いよいよ日本でも始まるんだなあとの懸念が先立ちます。そう、これぞ Free comission、つまり成果主義の始まりなのです。かつての日本は年功序列、仕事をしようがしまいが徐々に給料は昇給していき、定年まで安定した生活が送れる、そして定年後は退職金と年金で悠々自適.......。こんな日本古来のシステムが根底からひっくり返されて行きます。この記事の中ではこの証券会社の他、ある生保、百貨店、家電メーカー、居酒屋チェーン等が例として出されています。
実は此処に出ている生保の会社は、私の昔からの友人が勤めています。この会社は成果主義と云うよりは完全歩合制と云った方がよいでしょう。酒を一緒に飲みながらよく彼の話を聞いたものです。よく仕事が出来る社員と、脱落していく社員とがハッキリ別れるようです。「厳しいんだね。」と云いながらも、本来あるべき姿なのかなあと、徐々に彼の話によって私自身も感化されてきました。脱落者もかなりいるようです。「ああ、明日部下に引導を渡さなければならないんだよ。」と彼の口から聞いたこともあります。だから今日の記事のことはよく理解できます。この生保では年収が1億から200万と大きく開いています。1億と云うのもすごいですが、この会社に年収1億の人が4人いるそうです(でもどうせ半分以上税金で持って行かれるんだよね)。私の友人はむしろリクルート専門で、このような兵隊をヘッドハンティングする立場にいるようです。まさにこれもアメリカ的な考え方ですね。完全な実力主義です。もっと云うなら”働かざる者食うべからず?” 逆にどんなに一生懸命やっても結果を伴わなければ給料に反映しません。記事の中の証券会社はボーナスで差を付けているようです。証券会社はようやく上向いて来たところなので、さぞかしボーナスの増額は励みになることでしょう。1-2年前はそんなに差がつかなかったのではないでしょうか?
一方ではこのようなシステムはリストラの色合いが強く、雇用不安をあおる可能性もある旨書いてあります。短期間に成果を出せなかった人達が落伍者のレッテルを貼られ、自殺者も増えるのではとの懸念も書かれています。厳しいですね。自分の診療所に目を向けてみると、私の採点は多分甘いと思うんですが、やはりよくやってくれた職員には優遇すべきとの考えから、結構な勢いで皆さん給料が上がっていきます。そのかわり、職員を怒るときは大声を上げて叱ります。結局ついて来られない人は自ら辞めていきます。今まで泣きながら辞めていった人、辞める理由も云わずただ怒りながら辞めていった人、最近でもかなりの数の職員が辞めていきました。私自身、医師として患者さんに対する面と、経営者として職員に対する面とを完全に使い分けて仕事をしているつもりです。二重人格のAB型(私はAB型です)にピッタリですが、以前当院の患者さんを職員として迎え入れようとしたとき、その人は医師としての私の顔と、経営者、上司としての私の顔とのギャップに唖然としたようです。「そんな先生だとは思わなかった.....。」とは彼女の弁ですが、当たり前です。患者さんに対するような優しい経営者では診療所は維持できません。ましてや人の命を預かる、毎日が真剣勝負です。そのことがあって以来、募集広告を出しても、当院での受診歴がある人は絶対雇わないことにしました。結局患者と医者との関係まで壊れてしまいます。
時々私の子供達が私に尋ねます。どんな仕事がこれからはいいのだろうか? と。お父さんの答えは「もう、お前らの時代は楽に儲かるいい仕事なんてないんだよ、どんな仕事でも一生懸命やればいいし、さぼっていればどんな仕事でもどんどんダメになっていくんだよ。」。更に彼らがもう少し成長したら、「結果を伴わなければ評価されないんだ。」と云うこともだんだんと教えていくつもりです。私が小さい頃は、お医者さんになっておけば大丈夫なんてよく云われましたが、もう現在既にこれは違ってきています。ましてや開業医ともなると、2極分化されてきています。我々開業医も生き残りをかけて、競争を強いられるようになってきました。しかもあちらこちらに落とし穴がいっぱい。私の息子達にも、もちろん医者になってくれれば嬉しいのですが、苦労の割には報われないだろうと云う考えから、「何も無理して医者にならなくてもいいんだぞ。」とつい云ってしまいます。本当に彼らが大人になる頃の社会ってどうなっているのか読めませんね。アメリカ映画で近未来を想定しているものは、みんな廃墟と化した都市がロケーションになっています。本当にそうならないよう祈るばかりです。
成果主義と云うことですが、その成果を評価するのは非常に難しいことだと思います。例えば生保や自動車セールスなら売り上げに応じてその社員を客観的に絶対値で評価する事は出来るでしょう。よく会社の黒板や壁に各社員の成績がグラフになっていて、目標達成の暁にはそのグラフの上にリボンの花が張り付けられます。キャバクラの女の子の指名本数のグラフと一緒です。この新聞記事に出ていた居酒屋チェーンの店長さん達も、その店の売り上げをもってグラフにされてしまうようです。信じられないことに、税務署の職員にまでこのグラフが使われることがあるようです。脱税を幾ら分見破ったってことでしょうか? しかし、全ての職種がそのように数字で評価されるとは限りません。例えばその居酒屋の店長の下で働く人達は、如何にお客さんに対して良いサービスをしたかと云うことを客観的に評価出来るとは思えません。あるチームや課単位で成績を出さなければいけない職種も結構あるはずです。やはり日本ではすぐには馴染めないようなシステムではないでしょうか?
日本もだんだんそうなりつつはありますが、外国では転職することにそれほど抵抗はないようです。最近でこそトラバーユや就職情報等メディアが発達して、特に若い人達の間では気軽な転職が増えてきました。ましてやフリーターなんて言葉が広く浸透してきたくらいです。まだ私くらいの世代だと、転職することは、「長続きしないんだから~。」と云うような先入観が入ってしまうことを否定できません。でもフリーターで一生を過ごそうと思う人は未だ多くはないでしょうね。やはり自分の息子がずっとフリーターだったら、親としては心配になってきてしまうでしょう。自分に合った仕事と皆さんは云いますが、自分を仕事に合わせると云うことも少しは必要だと思います。私が研修医や勤務医だった頃は、自分に合う、合わないなんて考える余裕はありませんでした。もっとも医師と云う仕事に憧れを持ってそこまで来ましたし、今になって思えばがむしゃらだった若い時代はどんどん知識を吸収して、それなりに楽しくやっていたような気がします。だって、患者さんが私を信じてお腹を開けさせてくれるんですから、それが自分に合う、合わないなんて考える暇なんかありませんよ。でも途中で外科を辞めて行った人は何人かいました。外科医はもう3年生、4年生くらいになると、仕事が面白くてもう完全にはまっています。それくらいの時期に「やっぱり俺って外科医は合わないかなあ?」なんて思っている奴はいません。そんな人はとっくに辞めています。そして今にして思えば、当時の私なんかは、教授や上司からやはり成績の評価はされていたんでしょうね。大学病院では仕事の成果によって給料が決まると云うことはありませんでしたが、一般病院に勤務すればある程度その評価によって給料は左右されるでしょう。今の仕事、開業医も同じですよ。評価をしてくれるのは患者さんです。仕事をちゃんとしなければ当然患者さんは私の診療所から離れていくでしょう。だから最初に書いた生保や証券会社の社員達と同じですよね。患者さんの評価が私のもらう成績だと思います。当然診療所の医業収入こそが私の成績を反映しているのでしょう。だからこそ、これからもグラフの上にリボンの花が張り付けられるように頑張っていきたいと思います。私も成果主義にどっぷり浸かっているんでしょうね。