当院自慢の患者さん
「当院に通院している患者さんの中で、こんなにすごい人がいらっしゃるんですよ。」と自慢してみたくなりました。もちろん、どこのどなたと云うプライバシーは公表出来ませんが、これを読んでいただいた方々に、そんな人を目指して頑張っていただきたいと云う私の気持ちの表れとご判断下さい。と云うのは、本日の診療でお年寄りが体の調子が思わしくないとの話で、「こんなに元気なあなたよりも年上の人がいるんですよ。」とお話ししたことから思いつきました。梅雨に入り、やはり神経痛等を持つお年寄りの患者さんは何かと訴えが多くなります。そんな患者さんを元気づける意味で例に出した当院の患者さんのお話をするうちに、「そう云えばこのおじいちゃんはすごいなあ。そうだ!ホームページに書いてやろう。」となった訳です。
今回お話しさせていただくのは明治生まれ、もう93歳になる男性患者さんです。以前から他の先生のところに前立腺肥大症の診断でずっと通院なさっていた患者さんなのですが、その先生が亡くなられてしまったので、泌尿器科の看板を揚げている当院へ、続けて診てほしいと云うことで数年前に来院されました。当時88歳、だからもう既に5年のお付き合いになります。非常に通院熱心な方で、2週間毎にきちんと見えていました。当市では泌尿器科を掲げる先生はあまり多くいらっしゃらないので、この患者さんも市内ではありながら、割と遠いところから通ってきていただいています。ところがなんと! この患者さん、この年齢で250ccのオートバイに乗っていらっしゃるんですよ。ちょっとあまり今では見かけない、ビンテージ風のバイクなんです。皮ジャン着て、ゴーグルに白いヘルメット、体もがっしりした人で格好いいです。帰りもモニターで駐車場を見ていると、セルモーターではなく、キックでエンジンをかけ、さっそうと診療所を後にするんです。家族はおじいちゃんいい年して危ないから、何とか止めさせてくれないかと私に云ってくるのですが。私も確かにオートバイは危険だと云う認識では一致するんですが、この人からオートバイを取り上げてしまうとデメリットの方が大きいような気がして、まあなんとかその家族をなだめると云うような状態だったんです。
それともう一つ、この人のすごいところ、若干血糖値が高く、少し糖尿病の気があるのですが、これも家族の方からの報告で、時々ロイヤルホストやデニーズ等のファミリーレストランに一人でバイクに乗って行き、ステーキを食べて帰ってくるんですって! 奥様から、「体に悪いから先生からそんなことは止めるように云ってください。」と懇願されました。お話を伺ったのはご本人が90歳の時。確かに糖尿病の人が昼間からステーキではちょっと問題なのですが、私は奥様に申し上げました。「これだけの年齢のご主人ですから、好きにさせてあげましょうよ。」と。血糖値も薬を使わなければならないほどではないし、おじいちゃんが楽しみにしていることなんですから、それを無理矢理取り上げなくてもいいんじゃないでしょうか? と云うのが私の結論です。だから奥様にはその旨納得していただきました。主治医は全然家族の希望を聞いてくれませんね。
その後、1年ちょっと前に残念なことが起きました。自慢のオートバイが壊れてしまったのです。私はご本人からその旨お話を伺い、「すぐ修理に出して、またこちらへ乗ってきてくださいね。」と申し上げました。この患者さんが来院される毎に「まだ修理は終わらないんですか?」と繰り返し繰り返しお尋ねしたことを覚えています。どうやらこの患者さんのビンテージバイク、部品がないせいか、うまく修理出来なかったみたいです。私は同じくらいの大きさの新しいオートバイを購入していただく提案をしたのですが、どうやらご本人の気力もちょっと衰えてきたのか、結局オートバイは諦めてしまわれたようです。私も残念でなりません。
今でも足が弱りながらもお元気で、月1回は外来においでいただき、「変わりありませんよ。」とのお話を伺っております。家族の人が非常に熱心な方で、おじいちゃんがいらっしゃらなくても、2週間毎にお話を家族の方から伺い、日々の診療を続けています。オートバイの故障が残念でなりませんが、あるいは「そろそろもう危ないからやめなさいよ。」と神様がおっしゃっていたのかもしれませんね。私もお手伝いをいたしますから、頑張って100歳以上を目指していただきたいと思います。
また自慢できるような患者さんを思いついたら、皆さんにご紹介致しますね。まだまだ元気なお年寄り、たくさんいらっしゃいます。乞うご期待。