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人を使うと云うこと

 私は医師であると同時に経営者です。総務部、人事部、経理部、広報部、一人で何でもやらなければなりません。この中で一番頭を痛めるのが、やはり人事なんです。スタッフが仕事に慣れて、私が教えることを新人が習得してくれて、なおかつ永く勤めてくれれば人事の仕事は殆どありません。だからいつもスタッフ募集の際には”長期的に勤務できる人”と断りを入れます。だけど一人辞めると云うことになるとにわかに忙しくなります。辞める人間の退職手続き、新規スタッフの募集広告、面接、採用手続き、新規スタッフの教育、次から次へと雪崩の如く私の仕事が増えます。当院の税理士さんまで巻き込んで雑用がグッと増えます。実は昨日、知人の薬局長や製薬メーカーの担当者と飲む機会があり、スタッフのことについての話題が持ち上がりました。彼らもいろいろと苦労しているとのことでした。

 そんな中で”2-6-2の法則”と云うことが話題になりました。私がまずテーマを提供したのですが、こんな内容です。蟻の巣を例にしました。蟻の巣は女王蟻を中心に独立した一つの社会になっています(日本は天皇を中心とした神の国らしいですが.......)。一つの巣の女王蟻以外の働き蟻達、上位2割が率先してリーダーシップを発揮し、下位の働き蟻達に指示を出します。真ん中の6割がその指示に従って、ただひたすら働きます。そして残りの最下位の2割は…….? そう、さぼっているんです。さぼる奴がいると巣の仕事があまりはかどらない? イエイエ、さぼる2割も独立した社会である蟻の巣には必要なんです。もしさぼる2割を巣の社会から退けてしまうと? 今まで一生懸命働いていた6割のうちの一部がさぼりだすんですって! もちろん上位のリーダーシップを発揮する蟻達しかいなかったら、巣は機能しないんです。結局代表して怒られる人間がいないと、チームワークによる仕事は上手く行かなくなることが多いんだそうです。私がこの話を持ち出したら、もう一人のメーカーの人間が相づちを打ってきました。彼曰く、怒られても打たれ強い人間がいると、「あいつのようにはなりたくない。」と云う気持ちから、他の人間は一生懸命働くようになるんですって。むしろ怒られる人間がすぐ辞めてしまうと、当然他の人間には反面教師がいなくなってしまう訳です。打たれ強いことがその人間には必要なんだそうです。この理論を私はかねてから知ってはいましたが、その時にそれを”2-6-2の法則”と呼ぶことを初めて教わりました。なかなか難しいですね。

 Grumbleの”時間がない”でも少し触れましたが、当院でも寿退社や、音を上げて辞めていく人が時々います。原則当院では欠員の際は新聞の折り込み広告で募集をかけます。特に受付事務のスタッフ募集では、かなりの応募があります。いつも募集広告を出してから2日間で約20名の面接日程が出来上がります。この一人一人に実際に30分くらいかけてゆっくりと話を聞きます。やはり買い手市場で申し訳ないのですが、経験的に私の期待に応えてくれるような人材に巡り会うためには、募集人員の10倍の人間と話をしなければならないと考えています。つまり! 新規スタッフを1名募集するには最低10名と面接を、2名募集するには最低20名と面接をしなければならないんです。面接に落ちた経験のある人は(ましてや当院の面接でお断りした人がこのコラムを読んだら)ムッとくるかもしれませんが、こちらも本当に真剣勝負なんです。受付は当クリニックに初めて患者さんが来たとき、或いは患者さんが電話で初めて診療を受ける過程に入る時、まず一番最初に相手をする、いわば、当クリニックの顔である訳です。いい加減な対応をしてもらったら困ります。まず当院のスタッフに触れた瞬間から、「ああ、このクリニックに任せて良さそうだな。」と患者さんに思わせなければならない訳です。だからこそ、面接に遅刻してくるようなだらしのない人間に任せることは出来ないのです。いつぞやの募集の際には結構悩みました。いいなと思う人材が1名募集のところに3名いたんです。もちろん、20名近くの不合格者を出した上でのことです。やはり誰か一人を選ばなければならないときに、どうしても減点法になってしまいます。私はやりたくないあら探しをしなければなりません。結局2名は落とした訳ですが、その理由として、一人は将来の希望の欄で、当院で働きながらエレクトーンを勉強して、教えるための資格を取りたいとありました。まだ若い子ですから、こちらは当然資格を取れば辞めてしまうだろうと考えます。笑顔も可愛い彼女には私もずいぶん引かれたので、断りの電話の際に彼女の今後のためにありのままを話しました。「君がそのような夢を持つことは勿論素晴らしいことだし、頑張って欲しいと思う。だけど君を雇う僕としては、そんなことはどうでも良いことなんだよ。君は正直な人だから。もし採用されたいのであれば、嘘でもいいから、ずっとこの診療所で患者さんの役に立ちたいと書いて欲しかった。若い君にこんな事を云うのは酷かもしれないけれど、”嘘も方便”、君が勉強して資格を取ってその道に進むのであれば、そうなってから僕にゴメンナサイと云えば良かったんだよ。」と私自身は嘘偽りのない本音を話しました。彼女に次の面接で失敗させたくないからこそ出た言葉です。彼女は正直であるが故に、私の面接で不合格になってしまいました。だからこそ、私も正直ではない部分を見抜く力を持たなければならないのです。彼女の私に対するお礼の言葉から、彼女は間違いなく私の真意をくみ取ってくれたと確信しています。彼女は電話の最後に何人の応募があったのかを尋ねてきたので、「20数名中君がNo.2だった。」と話してあげました。これも嘘ではありません。もう一人の彼女も、もし受付の椅子に座っていれば、そこがポッと明るくなるような雰囲気を持っている子でした。しかし、履歴書に誤字、脱字が多いんです。学歴の欄に専門学校を卒業していながら、○○専問学校卒となっていました。慌てて書いたのか、履歴書の自宅の電話番号も抜けていました。彼女にも「おっちょこちょいを上手く隠さないとダメだよ。」と云うことを話しました。それぞれを差し引いても雇う側としては魅力のある女性達でしたが.........。この時は受付の人数を増やしてしまおうかとも考えさせられました。
 一方、雇ってからのトラブルもあります。ある勤務を初めて間もないスタッフが「学校の都合で休ませてください。」と電話連絡してきました。私に云わせれば”都合”と云うのは説明になっていません。「都合ではなく、学校の誰々にこんな理由で呼び出されたとか、急遽集まりがあって抜けられなくなったとか具体的に欠勤の理由を説明してくれ。」と云ったところ、それはプライバシーの侵害だとの答えでした。これってプライバシーの侵害になるのでしょうか? 当院如きの小さなクリニックでは、スタッフ一人の欠勤で仕事が廻らなくなるか、他のスタッフに多大な迷惑をかけます。不思議なもので、いとも簡単に欠勤を許すと皆が気軽に欠勤するようになり、欠勤が頻発します。欠勤がない状態が続くととことん続きます。仕事をしていく上では、一人の欠勤がどれほどの悪影響を与えるか実感してくれなければ困ります。看護師ともぶつかりました。当院では淋病の患者さんも来ます。淋病に対してはone shotで1日で治すことの出来る注射があります。ものすごく痛い注射なんですが、我慢してでも早く治したい人にはこの薬を使っています。前の病院で婦長を経験していた私より年上の看護師が私に云います。「先生、淋病を貰ってくるような人は、少し苦しませてすぐに治しちゃダメですよ。」~この看護師は私に云わせれば医療に携わる資格がありません。我々は裁判官でもなければ神でもありません。昼休み、私の留守中に外に遊びに行ってしまうスタッフがいました。無断欠勤で、私がガス中毒でも起こしているのではないかと交番に連絡して見に行って貰ったこともあります。結局このようなスタッフは自然に辞めていきます。また、今までこんなことで当院のスタッフを叱りました。
1)昼休みに私が外出から帰り、診療所の入り口から入って行きました。受付にいたスタッフは一生懸命下を向いて何かを書いています。私が入ってきたことに気付きません。私はカウンターを思いっきりバーンと叩き、「自動ドアの開く音が聞こえたろう? だったらすぐに顔を上げろ!!」と叱りました。
2)30分以上も待合室で待たされた患者さんが、順番で診察室に入ってきました。私が「ハイ、どうなさいましたか?」と尋ねたところ、患者さんが「昨日から歯が痛いんです。」と云ってきました。当院は歯科ではありません。隣にある歯科医院と間違えて延々待合室で無駄な時間を過ごしていたわけです。受付は初めて来た患者さんに「どうなさいましたか?」と聞くべきなんです。何も尋ねずにカルテの作成をするだけなら、アルバイトで充分です。
3)私の診察室に同姓同名の違う患者さんのカルテが廻ってきました。当院では全ての患者さんにIDナンバーを振っています。患者さんはIDナンバーと名前、更に出来れば生年月日で確認するべきなんです。同姓同名の患者さんは当院にゴロゴロいます。
4)話が終わって電話を切るときに、相手より先に受話器をガチャッと置くのは、コラム”電話の作法”の中で書いた通りです。
 まだまだいろいろあります。ある患者さんが「受付のあの人は怖い。」と云っていると私の耳に入ってきました。受付スタッフを怖がられては全く以て困ります。私は彼女に自分のポケットマネーを渡して、「駅前にあるそば屋○○に子供を連れて行ってきなさい。」と云いました。もともと美味しいそばが、スタッフの笑顔、接客によってますます美味しくなるからです。逆もまた真なり、別のまずいそば屋では従業員の態度が悪く、まずいそばがますますまずくなります。結局私はその店に2度と行きません。患者さんに対応するのは、接客以外の何ものでもありません。患者を診てやるなんて高飛車なやり方は全く過去の遺物です。我々は患者さんにサービスを提供してお金を貰っている訳です。
 同級生や昔の先輩とたまに会って話をすると、もう既に経営者になっている人も多く、雇っている人間についての悩みが話の種になることも多々あります。皆さん悩んでいるようです。私も経営者になって10数年、ずいぶんと経験してきました。面接なんぞはもう既に100名以上をこなして、しかも失敗もあることから、結構30分くらい話をしてみるとある程度その人間の像が見えてくるような気がしています。でもやはり難しいものです。所詮、個人としては完成されている人間を相手にする訳ですから。この看護師はよくやってくれるだろうと思っていたのに当院の仕事に付いて来れず、1ヶ月ちょっとで辞めていった時にはやはりショックを受けました。これは私の信念です。当院では私以外は全員女性ですが(雇用機会均等法により男性従業員が私の診療所に入ってくる可能性も出てきましたが)、経営者、あるいは上司としてその女性達に惚れられるような人間でないと全てが上手く行かないと考えます。私を嫌う女性であれば、当然様々なトラブルが起きてくるはずです。そして、私自身がその女性達に惚れられるように仕事の上で努力をしなければならないと考えます。現在の当院のスタッフはロゴマークのページでも書きましたようにチームワーク抜群、安心して任せられる優秀な人材ばかりです(たまにはドジもありますが)。私にとってかけがえのない宝です。いいえ、お世辞ではありません。
 同じ悩みを持つ経営者、上司の方々、是非意見交換としてE-Mailをいただければと思います。