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失われる信頼


 今、雪印乳業の黄色ブドウ球菌食中毒事件が様々なメディアで報道されています。確かにずさんな管理、後手に廻った善後策、責められてもしょうがない立場に追い込まれています。そしてそのトップが引責辞任。もちろんトップの引責辞任で全てが解決する問題では到底ありません。何か東海村のJCOの事故とダブる部分が多いような気がします。ずさんさが原因であることが共通項になっているような気がしてなりません。でも今回ここで私が書きたかったのは、その1回のつまずきが今までの信頼を一瞬にして消し去ってしまう恐ろしさのことなのです。雪印も歴史の長い会社です。恐らくは製品化するため、研究に研究を重ね、テレビコマーシャルを初め、販売拡大のために様々な努力をしてきたに違いありませんが、それがごく一部の人間のずさんな管理のために全てを失ってしまうと云うのは本当に怖いことだと思います。勿論1万人以上の食中毒患者を出した責任ははかり知れず重いことだとは思いますが、よくよく考えてみると明日は我が身、このように信頼を一瞬にして失う可能性は誰にでもあるのではないでしょうか? 勿論、私もそうです。日々の仕事で充分な注意を払いながら、しっかりした管理をしているつもりながら、もしかしたらとんでもない見落としがあるのではないかと、こんな事件を目の当たりにすると漠然とした不安感に陥ります。まして私は医療従事者、毎日のように報道される医療ミスを自分だけが起こすはずがないと誰が言い切れるでしょうか?

 おそらく雪印が失われた信頼を回復するのは無理ではないかと思います。もう既に雪印製品に対して、世間の不買という制裁が下り始めています。大手の販売店は雪印の製品を撤去しています。私にしても、他にもメーカーはあるわけだし、今後も好きこのんで雪印の製品を買うことはなくなるような気がします。もし世間の人達がみんなそう思えば、恐らく会社の存続は不可能でしょう。すると当然、個人的には何も落ち度がないのに職を失う人が出てくるわけです。もし私が自分のミスで患者さんを死に至らしめるような間違いを犯したら......(私の日常の診療では麻酔薬を使ったり、小さいながらも手術をしたり、そんなリスクと常に背中合わせだと思います)、と訳の分からない不安感があります。

 ある報道で医療ミスは医療従事者個人個人がどんなに気を付けても起こるはずだと書かれていましたが、確かにその通りだと思います。一つの予防策として、血管注入用のチューブとその他のチューブの口径を変えた企画にして、間違ってもそれが注入されないようにするべきだと云われていました。確かにそうすればその間違いはなくなるでしょう。例えば麻酔におけるPin Index Systemと云うのがあります。麻酔を行う際には複数のガスを使いますが、そのガスの配管が間違って連結されないように、ピンが合わなければ連結されないシステムが昔から出来上がっています。酸素と思って純笑気を患者さんに吸わせれば、確実に患者さんを死に至らしめますから。これから様々な場面において、このPin Index Systemのようなシステムが導入されていくことでしょう。しかし最終的には100%の信頼は得ることの出来ない人間の行う作業に任さざるを得なくなると思います。だからこそ我々も注意の上に注意を重ねなければならないのでしょう。

 無責任な云い方かもしれませんが、このような事件・事故はだんだん風化していきます。私もこのコラムを書くときに東海村は頭に出てきても、JCOと云う会社名はなかなか思い出せませんでした。つい数ヶ月前の出来事にも関わらずです。でもサリン事件や神戸の少年殺人等、やはり重大な事件・事故は風化させては行けないと思います。何故かマスコミが騒げば騒ぐほど一時の注目だけで、後は”喉元過ぎれば”になってしまうような気がしてなりません。私も風化を待つような間違いを犯さないよう充分注意するつもりですが、そう思うと本当に自分の仕事が怖い思いです。