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またまたまたまた医療ミス




なんかこの頃、医療ミスの記事のない日はないような毎日ですが、またまたまたまたまたまたまたまた医療ミスが発覚しました。それも、私がかねてからこんなこともあるかもしれないなあと思っていた過ちが、そのままもろに起きてしまいました。ある地方の市民病院で、ステロイド剤であるサクシゾンと云う薬と間違えてサクシンと云う筋弛緩剤が投与されてしまいました。もともとこの2つの薬は昔からあるもので、ともに私が医者になったときにはもう既に一般に使われている薬でした。ただステロイド剤であるサクシゾンは、私の研修医時代から割とみんなが使うのを避けていた薬なんです。理由はただひとつ、名前がサクシンと紛らわしいからなんです。別にサクシゾンを使わなくても、他に注射用ステロイド剤なんていくらでもありましたからね。私の麻酔科の研修の時にも、麻酔科の講師の先生が紛らわしくて怖いよなあと云っていたほどなんです。だから私自身、注射用ステロイドは山ほど使いましたが、サクシゾンは医者になって一度も使ったことがないんです。一方サクシンと云う薬剤は、麻酔導入の際に日常的に使われる薬です。作用時間の短い、即効性の筋弛緩剤で、気管内麻酔をしやすくするために最初に使う薬です。呼吸筋も麻痺しますから、これを使った後には人工呼吸をしてアシストしてあげなければ、患者さんは窒息です。

 どうやら、コンピューターで入力する際に、サクシゾンとサクシンが隣り合わせになっており、間違ってクリックしてしまったと云うのが間違いの発端らしいのですが、まああいうえお順に並べておくのも問題ではないでしょうかね。効能別に並べても間違いが起きるときには起きるでしょうけれど、あいうえお順に並べた時に隣同士で間違ったら一番大変なことになる組み合わせが不幸にして起こってしまったような気がします。仮にサクシンと云う名前の抗生剤であったら、何も起きなかったでしょうねえ。当院でも従業員達にしつこくくり返していますが、二重、三重のチェック機構が最も大事だと思うんです。この時も注射をする看護婦がおかしいなと思いながらも注射してしまったと云うのがなんとも悔しいですね。おかしいと思ったら、ちょっとそこで一息待って誰かに聞いて欲しかったですね。サクシンを注射するときには、もう人工呼吸の準備が出来ていなければいけないんです。つい最近看護師も静脈注射が出来るように法律が整備されました。数年前までは、看護師は筋肉注射だけしかやってはいけないことになっていたのですが、こんな事故を契機にまた法律が逆戻りしてしまわないか心配です。

 まあこの患者さん、肺炎でありながらステロイドを使わなければならないと云うことは、もともとかなり重症だったのだと思います。恐らく慌てて呼吸アシストをしながら気管内挿管をして、人工呼吸をしながらサクシンが醒めるのを待ったのでしょう。意識はサクシンだけでは落ちませんので、意識はしっかりしているのに呼吸は出来ないと云う、非常に恐ろしい体験をこの患者さんはしたことと思います。先輩と自白強要に使えるのではないかと話したことがあるくらいですから。現に患者さん本人も死ぬんじゃないかと思ったと云われていたようです。しかし、その後の詳しい経過は存じ上げませんが、不幸にしてこの患者さんは亡くなられてしまったようです。

 ただ新聞報道の仕方にも一つ文句があります。新聞の第一面の小見出しに”入力ミス、毒物注射”とあります。確かにサクシンは毒物指定にされている薬剤ですが、このまま見出しを見れば、素人の読者はまるでシアン化合物やトリカブトみたいないわゆる毒を注射したかのように誤解します。麻酔導入の時にはラボナールと云う静脈麻酔薬で患者さんの意識を落とした後に、サクシンを追加して全身の筋肉を弛緩させ、人工呼吸でアシストしながら気管内挿管を行う、麻酔には無くてはならない薬剤なんです。私の病院では、ラボサクって云って、ペアで一つのような感覚で使っていました。別に人を殺すための薬ではありません。非常に代謝の早い薬で、呼吸をアシストしているうちに醒めてしまうような薬ですから、不幸にして8日後に患者さんが亡くなったことから、客観的に見てもあまり関係なさそうに私には思えるのですが、残された家族はこの説明では到底納得は出来ないでしょう。ましてやこんなに医療ミスが連続で発覚、報道されているまっただ中での出来事ですからね。例えコンピューターを使っても入力するのは人間の手、やはり二重、三重のチェック機構がどうしても不可欠です。気をつけてもミスは起きますし、二重のチェック機構くらいではすり抜けてしまうこともあるでしょう。もうここまで来るとミスを犯すなと云うのは無理だと思います。ミスを見つけろと云わざるを得ないでしょう。決してこれは対岸の火事ではなく、いつ自分のクリニックで起きないとも限らないことです。当院でも二重、三重のチェック機構を有しているつもりではありますが、更にその精度を高める必要があるようです。また時々チャンスがあればじっくり我が身を振り返ってみようと思います。