日本を捨てて
ちょっと友人とのMailのやりとりで考えさせられることがありました。実は患者さんのことで同級生のドクターにMailを送ってお尋ねをしたのですが、彼は今米国に留学中、しかもMailにはもう日本には戻らないかもしれないと書いてありました。彼にとってはもう日本は魅力のない国なのか? また私の知人で定年退職後、アメリカで余生を過ごす計画をしている人がいます。二人とも現在グリーンカード(永住権)の獲得にTryしている様子、はたまた昔お世話になった人で、もうハワイ島に家を建て、老後はそこで暮らすとおっしゃっていた方もいらっしゃいます。その人曰く、退職時に5000万円の貯蓄があれば夫婦二人のんびり死ぬまで暮らして行けるって。確かにそれを実行した人ですぐにホームシックにかかってやがて帰国したと云う失敗例も聞き及んでいますが、他にも数人そのような海外永住を考えている人があり、自分自身がこのまま日本に死ぬまでへばりついていることが良いのかどうか疑問を持つようになってきてしまいました。こんな人達を見るにつけ、高齢少子化、そして身勝手な政治家(敢えてStatesmanではなくPolitisianと呼ぶべき奴ら)や官僚達が巾を効かせる日本は間違いなく衰退していくのではないか? と考えるようになってきました。税金だけは馬鹿高くて、社会保障は60歳から70歳までの間はポッコリ空白ができ、70歳過ぎれば早く死ねよと云わんばかりの医療体制、死んだら死んだで3代で財産を国に吸い尽くされる相続税体系、誰がこんな日本にしたのかと恨み辛みが募る一方です。医者の平均寿命は一般より10年短く、更に外科医はそれより10年短い、59歳で他界した自分の父親を見るにつけ、自分もそれくらいで仕事をしながら隠居もせずに現役のまま? なんて考えてしまいます。。
かつては定年退職してから自分の時間を持ち、好きなことが出来ると云われてきました。そのために若い頃から年金を納め、税金をふんだくられ、欲しいものも手に入れられず、やりたいことも出来ず、働き蜂となってきた日本人。厚生年金も間違いなく崩壊するとまことしやかに囁かれ、約束していた年金も支給年齢の繰り上げ、支給額の減額。そして今現在トンネルの出口が見えない戦後最悪の不況。期待していたかつて変人と呼ばれた日本の代表もどうやらポーズだけの様子。何一つ明るい材料は見あたりません。
結婚後間もなく、老後は聴診器1本でのんびり診療ができる海の青い南の島の無医村に行って静かに暮らそう、なんて女房に云ったことがあります。女房はついてくるとは云っていましたが本当? 危険を伴う内視鏡はせず、病変を見落として責められる可能性のあるレントゲンやエコーも行わず、患者さんの胸の音を聞いて、血圧を測って、それでのんびり患者さんと世間話をしながら物価の安い所で暮らせたら、なんて憧れたこともありました。20年後の医療を考えたとき、自分がどれくらい患者の信用を得て診療が出来るのか?情けない話ではありますが、そんな漠然とした不安に駆られることもあります。
日本で老後を過ごすことが大変なことになってきているのは間違いない事実です。とにかく日本は物価が高い、物価が高いのは税金が高いからだといつもこじつけていますが、特に東京では老後は暮らせないと云う声をよく聞きます。最近ダイレクトメールがよく来るのですが、熱海や富士山周辺で介護付き、看護婦が常駐するような老人専用のマンションの広告、入居時に支払わなければいけない金額が数千万、しかし後は天国のような至れり尽くせりの老後生活が待っている? 冗談じゃねぇよ! 数千万払った直後にその会社が倒産して金は返さないわ、マンションは出て行けなんて云われた日にゃぁどうしてくれるんだよ? と云いながらそんな封筒はゴミ箱行きになっています。ついでに”ゴミ箱を空にする”なんてコマンドがあると良いんだけれど。
一方今現在、現役でも海外に駐留している知人からの便りで”こっちは良いよ!”って声を聞くこともあります。やはり東南アジアは暮らしやすいらしい? まず物価は安いし、日本人は丁重に扱われるし、食べ物は美味しいしって良いことずくめらしいのですが......。ホントに日本人て海外では歓迎されているんですかねぇ? 侵略をしつくした日本人を恨んでいる人達が多いと云う先入観を持っているのですが、私の間違いなのでしょうか? やはり日本は成熟しすぎた? 権利意識を持つ人間が増えすぎた? 日本て本当に暮らしにくくなってきています。でも日本を選んだのは自分自身ではないですからね。生まれてきたら日本人になっていただけのことですから。これからますます国境はハッキリしないものになり、気軽に海外へ引退なんてことが出来るようになってくるでしょう。でもその障壁となるのが、日本が島国であることと言葉の問題。東南アジアでも知識階級は英語に堪能です。私でも理解できない単語を並べてそれらしく喋っています。一方で英語が話せない日本人は多いですよね。つい先日も東南アジアからの留学生が私の診察室に来ましたが、それはまるでアメリカ人かイギリス人と話をしているような心境でした。その患者さんが診察室を出ていった後、ナースに「ねぇ、以前彼が来たときはもっと日本語を話さなかったっけ?」と聞きましたが、こんな時に臆することなく流暢な英語で返答できたらカッコ良いなぁと思うと同時に、「あそこの医者は英語が通じるよ。」と仲間うちに云って、留学生の患者さんが増えるんじゃないかな? と思いました。いずれにせよ、もう今の時期になると、子供がどんな仕事に将来就くのかを考えると同時に、自分自身の身の振り方も考えなければならないと考えています。出来れば、諸先輩方に「海外での老後生活はどうですか? 快適ですか?」と尋ねてから身の振り方を考えていきたいと思っています。まあ、日本にへばりついていることだけが良いことではないと重々に理解しているつもりですが.......。