身を寄せる処の選択
お正月早々、InterNet及びMailの設定で苦労しました。もともと私がお世話になっていたプロバイダーは営利企業ではなく、好きな人達が集まって運営していた互助会形式の団体、だから今では当たり前になった月々いくらでかけ放題の安価なサービスを数年前からやっていました。人に話すと「良い処だねぇ。」と云われ、また取得したアドレスも覚えやすく大変気に入って重宝していました。年に1~2回総会が開催され、私も一度出席したことがありますが、その内容たるやかなり高度なもので、私如きには全く意味不明、しかも誰が偉いと云う訳ではなく、お互いの批判を遠慮なく発言出来る(良い意味で)環境と見受けました。どの世界も一緒で、その中で恐らくは殆ど報酬なしで率先してやる人が数名いて、それに私のような何の役にも立たない人間がぶらさがって会費だけ払い運営が営まれると云う形態でした。ちゃんと収支もメーリングリストで送られ、お互いが厳しいチェックをしているようでした。詳しい経緯はよく知りませんが(どうやら大人数の脱会者が出たらしい)、急速に経営状態が悪化し、突然年内いっぱいで活動を停止する旨の通達があり驚きました。結局大元の団体は解散、私のごとき役に立たない人間を救済すべく善意の第三者が今のメールアドレスやURLを維持すべく動いてくれて、私も自身のアドレスを残すことができた次第です。あまりにも急な話(と云っても1~2ヶ月の猶予はありましたが)で戸惑いましたが、そんな時、自分の”身を寄せる処の選択”が如何に大事であるかをまた考え直しました。今回のプロバイダーに関しては、安い月会費で身に余るサービスを受け、それを数年(私のInternet lifeの歴史と同じ、何年経つのかは忘れた)継続していただいたことで、このプロバイダーを選んだことに後悔はありませんが、時にはそれが自分にとって甚大な被害をもたらすことも有るのではないかと思います。
昨年、友人のドクターから来た年賀状に「電子カルテを始めました」と記されており、羨ましいと思うと同時に、自分の遅れについて若干の焦りを感じたことを覚えています。たまたまその友人と一緒に飲む機会があり、そこで「ところで年賀状にあった電子カルテ、使い勝手はどう?」と聞いたところ、彼が依頼してセッティングしてもらった会社が倒産して結局白紙にもどったとのこと。私の倍稼ぐ患者の多いクリニックの院長ですから、数十万の損失はちっとも答えていなかった様子でしたが、これがもし私だったらどうなることかと思ったものでした。依頼をして手付け金や保証金を払った後に相手方が倒産して結局お金を捨てた結果になったなんて話は枚挙にいとまがありません。倒産直前にお金をふんだくられ、詐欺容疑で裁判沙汰になるなんてこともよく聞きます。私の処でも、普段高価な医療器械はリースが殆どなのですが、たまたま約300万の理学療法機を2台一括で買い入れ、その後しばらくしてその会社が倒産して機械のメンテナンス、修理ができないと云われ途方に暮れた時がありました。その時は修理が必要だったのですが、債権回収の暴力団絡みの人間が倉庫の廻りにウロウロしていて、修理のための部品を取りに行くことが出来ないと云われ困っていました。もともとその会社はいろいろなことに手を出しすぎ、本来は国内では一線級の品質の理学療法機を生産していたのに、下らないことでつまずいた典型的な例でした。今は我々ユーザーが保守契約を結んで会費を払うことによって辛うじてメンテナンスだけは出来るようになりましたが、また医療経営のノウハウに関して手を出そうとしており、また同じ失敗をくりかえしそうなものに手を出すのであれば、今の機械が償却したところでその会社とは縁を切ろうかと考えています。つまり身を寄せることが出来る信頼を失ったことになります。
今度は逆に私自身が他人から身を寄せられたら? 正に私はそんなことを請け負う仕事をしている訳ですが、やはり「ああ、あいつにかかっていて良かった。」と患者さんから云われるような仕事を目指さなければいけないと考えています。患者さんを永く診ていく上で、患者さんのデータを分析していくのは大事なことです。市の検診の胸のレントゲンで肺ガンが見つかったことがありました。日常の血液検査で急に貧血が進み、調べてみたら大腸癌が見つかったことがありました。血液中の総蛋白が異常に高くなったので調べてみたら多発性骨髄腫が見つかったことがありました。これらの患者さんは皆自覚症状がなく、偶然早く見つかったので、皆さん今現在も元気で通院されています。一方で気付いた時には手遅れの膵臓癌、胃癌、脳腫瘍なんて患者さんもいました。こんな人達を少しでも減らすべく努力をしていくつもりではありますが、やはり限界があるのは否めません。
しかし我々かかりつけ医にもジレンマがあります。通常我々が行う医療行為は保険診療、つまり患者の訴える疾患について診療をしていくわけです。今治療医学から予防医学へと変遷していますが、現在の保険医療では予防の部分まで全てをカバーしている訳ではありません。例えば高血圧症でかかっている患者さんに対しては何か自覚症状の訴えがないかぎり胃癌検診は出来ません。しかし、患者さんに降圧剤を処方するのは、脳卒中や心臓病を予防するためなのです。ここに大いに矛盾を感じます。かつて保険医療はファジーなものと云われてきました。医師に裁量権がありました。しかし医療財政逼迫の大義名分の元、今やこれらのバランスが大きく食い違ってきているのは間違い有りません。医師の側にも問題があったことを私は否定できませんが、今の状態はあまりにもひどいと云わざるを得ません。あまりやりすぎると出る杭は打たれる? 我々は自分の仕事を平均点で評価されます。保険点数の平均点が高いと濃厚診療と見なされ、睨まれます。だから、とことん患者さんの面倒を見きれない? それでは人の命を預かる身としてあまりにもお粗末ではないでしょうか? 患者さんの側にも理解してもらいたいところがあります。保険診療と人間ドックとが全く違うことを。