Doctor Shopping
もうOnline相談室への相談Mailが180件になりました。なかなか悩まされる相談もあり、中には完全にお手上げと云うものもありました。私が返事に窮するような相談者の質問では、やはりその相談者がかかっている主治医の苦悩ぶりがそのメールの言葉の中で充分にくみ取ることが出来ます。”やはり医者を換えた方が良いのでしょうか?”と尋ねられる場面も結構あります。何回かこのホームページに書いている私の持論ですが、患者さん対医者の関係であっても所詮人間対人間のつき合いの中での話し、当然相性の良い悪いはある”と書いてきました。正直なところ私自身もう既に自分の診療所でも相性が合わない患者さんがいらっしゃることは確かです。ホントはいけないことなのですが、私自ら患者さんに”医者を換えてみたら?”と自分の外来で云ったこともあるんです。逆に手前味噌にはなりますが、”協和診療所診療所で診てもらったら?”と友達から云われて来たと云う患者さんが時々いらっしゃいますが、その時は誰から聞いたかを尋ねておいて、後にその紹介してくれた患者さんにご紹介いただきありがとうございますと云いながらも、実際にその本人にとって私が良い医者でも、万人に良い医者とは限らない、場合によって協和診療所へ来たことを後悔することも時にはあるかも知れない旨話すことがあります。イヤ、現にそう云うことがあったのですが。こちらの勝手な言い分を云わせてもらうなら、やはり患者さんと良い関係を保てない場合、こちらが”ん?”と思うような何かがあることが多いのですが。
そこでOnline相談室への相談Mailで”やはり医者を換えた方が良いのでしょうか?”と尋ねられると、本音のところでは”あなたがその先生を信用できないのならもっと良い先生を捜しなさい。”と云うことになるのですが、実際には患者さんの側に治療の成果が上がらない理由(例えば少し良くなったら通院を止めてしまうとか、医師の指示通り薬を飲んでいないとか、服薬以外の一般的な注意事項が守られていなかったりなど)がある場合が少なくありません。そんなところで”医者を換えなさい”なんて云った日には、私は相談者への回答として適切な返事をしていないってなことになってしまいます。よく報道でも自分がかかろうとしている医療機関がどの程度の医療レベルを持っているのかが分からないのが問題だと取り沙汰されます。確かに心臓の手術や癌の手術で治療成績や生存率での比較をすると多少の差はあり、また手術数、つまり経験数では相当の差があることは間違いありません。だから私自身が自分のところに来てくれる患者さんをより高次な大病院に紹介するときには、その患者さんの疾患に長けている病院を紹介しようと努力します。しかし患者さんから○○病院へは紹介してくれませんか?とこちらの薦めにも関わらず患者さんがおっしゃるとき結構悩むものなのです。”○○病についてはあの病院は専門の巧い先生がいないんですよ。だから△△病院の方が良いんですよ。」って私を選んでくれた患者さんに云いたいのですが云えない訳です。しかし、そんな大きな病院で大きな手術をするわけでもない場合、つまり私の処くらいの小さな診療所のレベルで考えれば、いくらでも患者さんの情報収集はできると思っています。例えばラーメン屋さんへ行くのに、近所の知り合いからあそこは美味しいとかまずいとか、いつも混んでいるとか昼時でもガラガラだとか、目を凝らしてもらえば分かるものだと考えています。噂ってのは怖いものです。私自身近所で協和診療所の悪い噂が立てば、それこそ死活問題になってくることを充分に承知しています。
さて今度は意を決してその診療所にかかって診療を受けた後、或いは数回通院して治療を受けた後、患者さんの側にはいろいろ問題が起きてくることもあります。治療してもちっとも良くならない、やっぱりあの医者が気に食わない、看護婦の態度がなっていない等々。我々の仕事は巧く行って当然、巧く行かないこと自体患者さんが覚悟をしている訳ではなく、しかも病気にかかって元に戻って良しとするもの、ラーメン屋さんではお腹がいっぱいになっただけで満足する訳ではなく、やはり”美味しかった!”となるプラスαがありますが、心臓の病気を治して悪くなる前よりマラソンが速くなるわけではありません。だからこそ私自身は”あいつにかかって良かった”と患者さんに思われるように努力をしているつもりではあるのですが、全ての患者さんにそう思ってもらうと云うのはまず不可能なこと。全く同じ病気に対して同じ治療を施しても、結果が違うなんてことは日常茶飯事です。「そう云えば最近□□さん来ないねぇ。」なんてスタッフに話しかけることもしばしば。我々としては患者さんが良くなって来なくなったのか、或いは何か不満で来なくなったのかが通常分からないんです。まあ知り合いの先生から”以前小野ちゃんの処に通っていた患者さんねぇ、こんなことを云っていたよ。」なんて聞くこともないわけではないのですが。そして私のことが気に食わなくても、次の先生の処で巧く行って、それでその患者さんが次の先生の処に永く通って良いつき合いをしてもらえば良いのですが、いろいろな診療所を転々とする人がいることも確かなんです。こう云うやり方をドクターショッピングと云います。これは絶対患者さんにとっても得策ではないことは確かです。まあ正直な処、前医のことを私の外来でボロクソに云う人は、数ヶ月後私も他の先生の処でそう云われるんだろうなぁって先入観が出てくるのは事実です。むしろ私の知っている先生で、”あの先生に治せないのでは私では無理ですよ。”って云っちゃったこともあります。ドクターショッピングをする人はそれをしなければいけない理由は患者さん自身にあると私は確信します。最近でもここ数ヶ月で4件もの医院を同じ病気で渡り歩いているおばあちゃんが来ましたが、その家族が当院にかかられていて、その旨いろいろ聞いたらさもありなん、”じゃあ、僕の処にもそう永くは通って貰えませんね。”と家族に云ったら笑っていました。だからこそ、Online相談室の回答にも先生を信じて暫く通ってくださいって云うことが多いわけです。そして最初にかかる先生を選ぶのに慎重になるべきと考えます。そして私の立場に立てば、その患者さんがリピーターになってくれるように私自身患者さんの診療に精を尽くす訳です。そして今家庭医と云う言葉が盛んに云われますが、何でも相談できる信頼できる主治医を一人か二人決めておくべきだと思います。そしてその先生の手に負えない病気であれば、その先生の人脈を通じて患者さんの利益になるような専門医を紹介してくれるはずです。当然私もそのようなパイプがなければ、こんな一匹狼で診療所なんてやっていける訳ないのですから。