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自殺率世界一

 今ある雑誌に出ていたのですが、8月に日本で開かれた世界精神医学会において、未だ推計の域を出ませんが日本が自殺率世界一になると書かれていました。ショックです。日本人が世界一自殺しやすい国民なのか、或いは日本が世界一生きて行きにくい国なのか、或いはその両者なのか? 結局は今の日本の惨憺たる国情にあると私は思いますが。自殺率ワースト1の不名誉をこの国のリーダー達は何と見るのでしょうか?
 中央高速道の国立・府中インター、そのインターの手前に結構大きなビジネスホテルがあります。数年前、ある中小企業の経営者3人がそのホテルで同時に自殺したことがあるのですが、それは当時大きく報道され、私もそのホテルの前を通るたびにそのことを思い起こします。よく人は自殺は卑怯な逃げ方だと死者を責める言葉を吐きますが、私はちょっと考え方が違います。人は生きていくために仕事をし、勉強をして頑張っていくもの、その生きると云う最終目的をも放棄せざるをえないところまで追いつめられた人達を責めるのはちょっと酷ではないかと考えます。もちろん自殺は薦められることではありませんが、誰しも死んでしまった方が楽かも知れないと頭の片隅に浮かんだことがあるのではないでしょうか? 酒の席でも心許せる友人とそんな話をするとき、そんなことは考えたこともないと答える方がかなり少数派と思います。批判を敢えて恐れずに云うなら、恐怖を乗り越えての自殺まで考えてしまう人がどれほど追い込まれているか、そして自殺することが一つの病気と考えるなら、周囲、特に我々医師が何とか自殺を思いとどまらせるべきだと考えるからです。死ぬと云うことは大きな苦しみや痛みを伴うはず、気軽に自殺できる人などはいないはずです。他人が理解できないほど思い悩み抜いた末の結論でしょうけど、その結論だけを見て個人を責めるのはいとも簡単なことです。
 日本で自殺が多い理由の一つに切腹を美徳とした国民性なんてことが書いてありましたが、それよりも切腹、つまり自殺を許容してしまう土壌はあるいは日本にあるのかも知れないのだそうです。そう云う土壌がたとえあったとしても、それが直接自殺率世界一に結びつくとは思えません。幸せな人生を送っているなら、そんなことは考えないはずですから。如何に日本人が不幸な、それも一度幸せを経験してからまたどん底に突き落とされたかをこの数字は物語っているように思います。死亡原因の上位に食い込んできている自殺、社会問題として取り上げ、大いに議論して行かなければならない問題だと思いますが、どうやら国は重い腰を上げようとしていないように見えます。少なくも”自殺は卑怯な逃げ方”と多くの人が考えているうちはなかなか解決策も見いだせないでしょう。
 私自身同じ学校の同級生で自殺してしまった人が数人います。中には同じクラスで二人も自殺してしまったクラスも。担任の先生は何と考えたのでしょうか? 私の知る医師でも自殺を遂げてしまった人が数人いますが、重責を担わされて行き詰まった人、訴訟を受けて思い詰めてしまった人、過酷な労働に疲れ切ってしまった人、それぞれ理由はいろいろあるようです。よくうつ病と自殺の関係が取り沙汰されますが、うつ病の極期には自殺を敢行しないもの、むしろ病状が少し上向いて周囲がホッとしていたときに突然自らの命を絶ってしまうことが多いのです。うつ病のどん底では自殺する気力もないと云われます。私自身自分の患者さんが自殺したことを知って初めてあの症状はうつ病だったか? と気付いたこともあります。専門外とは云え、結局最悪の結論に至ってしまったことに対して自分を責めた事もありました。最近では抗うつ薬の中に精神科医師ではなくても比較的安心して使える薬が増えてきました。かつて云われた躁鬱病ではなくて、抑うつ状態とも云える軽い症状の患者さんの絶対数が確実に増えてきたことに呼応すべく開発が進められてきたのだと考えます。特に老人性うつ病も日常の患者さんに多く、特にうつを思わせるような患者さんの場合には、家族とも充分なコンタクトをとり、症状が軽くなったからと云って安心は出来ない、気を付けるようにと指導しています。かく云う私だって、落ち込んだ時にはそんな精神安定剤を服用することもなくはないくらいですから。
 8月に学会発表された内容が、10月の時点で”未だ推計の域を出ない”のは、国がこの大きな損失に対して真剣に取り組んでいない証拠だと考えます。今の政治家達は国の財産ばかり考えて時代劇に出てくる悪代官よろしく、ただ国民からむしり取ることしか考えていません。国民の命は何にも代えがたい重要な国の財産だと思います。そんな大事な財産よりも現金、又は換金できるものにしか目が行かない今の制度を根底から見直す甲斐性のあるリーダーはどうやらいないようです。そうしてそんなことを蔑ろにしている厚顔無恥な奴らが国会を闊歩しているような気がしてなりません。