老舗の衰退
私は音楽が好きです。そして最近はDVDを買って映画を観ることが多くなりました。だから市内に行きつけのレコード屋さんが3軒あり、その3店舗全てのメンバーズカードを持ち、ポイントを溜めています。過日欲しいCDを探しに出てきたとき、ふと思い出しました。私の行きつけのレコード屋3軒以外に、かつてここにレコード屋さんがあったはずだと。しかし今その場所は携帯電話ショップ、私の行きつけのレコード屋は全て名の通った大型店舗のチェーン店、こんなのが歩いて3分以内の地域に3軒もあれば老舗と云えどもあっと云う間に潰れてしまうのは当然のことでしょう。豊富な資金を注ぎ込み在庫を抱える、しかもチェーン店であれば不良在庫を分散することが出来る、置いてある品物が多い店に足が向いてしまうのは顧客として当然のことです。
実は私の住んでいる住居周囲には私が小学校時代に多くの商店がありました。お肉屋さんあり、八百屋さんあり、乾物屋さんあり、お菓子屋さんあり。しかし当家から歩いて数分の処に大型のマーケットが出来、結局そんな店はことごとく店じまいをしました。今から二十年以上前の出来事です。それが更に大規模になり、今や駅前の百貨店にその大型のマーケットの存在までもが危機に脅かされているような状態です。だから当家周囲の街並みも変わりました。ここのところ繁盛して存続しているのはレンタル・ビデオ店くらい。その他様々な飲食店や洋品店が出来ますが、やはり数年で消えていきます。
駅前では再開発が進み、かつて地に足を降ろしていた老舗がビルのテナントとなり、二階や三階で商売を続けていくようです。それも百貨店の中にも同じ品物を取り扱う場合が少なくないはず、土地を取り上げられた店主の心情は如何ばかりかと推察します。
私が懸念するのはいずれ医療機関にもこんな現象が起きてくるのではないかと云うこと。今や株式会社が医療に参入することを国が奨励し、最終的には当院の如き小さな診療所の廻りに大資本を基盤にしたサテライトクリニックがたくさん出来てくるのではないかと考えています。映画の”You've Got M@il”でもメグ・ライアン扮する経営者の小さな絵本屋さんは大きな書店に潰されました。しかし大型店で客の要望する絵本が廃版になったことが分からなくても彼女の頭の中にはその情報が入っている、正に診療所でもそんなことが起きるのでしょうか? 診療のオートメーション化が進むのではないかと気にしています。たかだか数百万の胃カメラや超音波断層撮影装置を新調するのにあれこれと悩み、やっとの思いで買い入れる小さな我がクリニックと、設備投資として大きな資本の中からいとも簡単に医療機器を買い入れてしまう株式会社の診療所と設備面での競争は初めから勝負が分かっています。その大型店に勝つだけの医療サービスを提供することが私に出来るかどうか、大いに疑問に思うところです。当診療所は父の代、昭和35年以来の開業、この辺では一番の老舗になっています。しかし、医療保険の引き締めとともに存続が決して楽観視出来ないと云うことは、全ての商売が大資本化してくることと同じなのでしょうか? 都心ではそれこそ有名な老舗が相続税を払えないために二代目、三代目に継承できないと云う悲劇が起きています。国にとっては老舗の名よりも税金と云う現金収入の方が大切なのでしょう。大資本の下では訴訟にかかる費用も経費のうち、これから大幅に増員される弁護士とともに株式診療所との攻防が激化することを予測するに連れ、どちらが患者さんにとって幸せなのか混乱してくるところです。何もかも良い方向に向かない、昔が良かったと思うのは負け組の遠吠えでしょうか? イヤな世の中になったものです。