社長! 飲みの方はどうですか?
新宿歌舞伎町を歩いていると、よく客引きから「社長! 飲みの方はどうですか?」と声をかけられます。今ではぼったくり防止条例が敷かれ、客引きが引きずり込む店で痛い目を見ることはこの歌舞伎町ではなくなったように聞いていますが、もともと客引きなんざに連れて行かれる店はろくでもないと考えていますし、私自身はだいたい行く店は馴染みのところばかりなので、こいつらに付いていく事はまずありません。しかし私はこの飲みと云う言い方が大嫌いです。なんちゅう日本語や!! とこっちも自然に相手のレベルにまで下がってしまいます。しかし、今回このColumnで話題にしたいのはこの飲みではなくの方の方なのです。の方と云うからには何か他に比較するものがあるはず、彼らの比較するものは飲み以外になると他に触る方でしょうか? それとも出す方でしょうか? まだそのように他に比較するものがある彼らの言葉は許せるのかも知れません。
しかし何も他に比較するものがないのにの方と云う言い方をする人が結構います。ものの本に書いてありました。それは自分に対する自信のなさの現れであると。これは聞き捨てなりません。確かに私も外来で高血圧の患者さんに「ところで胃の方は如何ですか?」と尋ねることはあります。しかし私も他に比較するものがない場合に、の方と云う言い方をするのは極力避けています。風邪だけで来た初診の患者さんに「風邪の方が長引くようだったらまた週末に来て下さい。」とか普段来院されている患者さんに「是非今度成人検診の方を受けて下さい。」とかは云わないようにしています。それは自分の診療に自信がないと思われたくないからです。
思い返してみればかつて未だ勤務医だったころ、看護婦(この頃は未だ看護師と云う言葉はありませんでした)の日勤から準夜勤への申し送りを聞いていて非常に不自然に思えたことがありました。例えば「患者さん、○○さんの方ですが、明日は検査、血管造影の方が午前10時から入っています。お熱の方は37.1度、特に熱発の方がなければ午前9時半にプレメディ(前投薬)の方、宜しくお願いします。なおバルーン・カテ挿入の方は△△先生の方へお願いして下さい。車椅子の方ではなくストレッチャーの方で搬送してください。帰室の方は午前11時半頃を予定の方、しています。」 と云った感じです。彼女は自分の仕事に自信がなかったのでしょうか? 本でそんなことを読んでから、非常にそんな言い回しが耳につくようになりました。そう、ピンクで染めて文章にすると如何にもひどいでしょう? だから当院ではそんな言い方をしないように指導していますが、なかなか直らないスタッフもいます。そう考えると、いろいろな人と話すとき、「ああ、あんたは自分の仕事に自信を持っていないんだな?」と考えるようになってきました。だから何かかなり思い切ったものを買おうとするとき、もし担当者がの方を連発すると、巧く云って契約を避けるようにすらなってきています。実際にそれで話が立ち消えになったこともありました。自信のない担当者にお金を払って契約する必要はありませんよ。そんな考え方をしていると結構の方が耳についてきて違和感を感じるようになってきました。或いはその違和感が自分を守るための手段になっているのかも知れません。少なくとも私は自信を持って薦めてくれるものを買いたいし、契約をしたいと思いますから。